ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. R.I.P. Brian Wilson 追悼:ブライアン・ウィルソン
  2. Autechre ──オウテカの来日公演が決定、2026年2月に東京と大阪にて
  3. Columns 高橋康浩著『忌野清志郎さん』発刊に寄せて
  4. Tanz Tanz Berlin #3:FESTIVAL WITH AN ATTITUDE ―― 'FUSION 2011'体験記
  5. 忌野清志郎さん
  6. R.I.P.:Sly Stone 追悼:スライ・ストーン
  7. Columns The Beach Boys いまあらたにビーチ・ボーイズを聴くこと
  8. These New Puritans - Crooked Wing | ジーズ・ニュー・ピューリタンズ
  9. 完成度の低い人生あるいは映画を観るヒマ 第三回 アロンソ・ルイスパラシオス監督『ラ・コシーナ/厨房』
  10. world’s end girlfriend ──無料でダウンロード可能の新曲をリリース、ただしあるルールを守らないと……
  11. Saho Terao ──寺尾紗穂の新著『戦前音楽探訪』が刊行
  12. アナキズム・イン・ザ・UK
  13. Sun Ra ——生涯をかけて作り上げた寓話を生きたジャズ・アーティスト、サン・ラー。その評伝『宇宙こそ帰る場所』刊行に寄せて
  14. MOODYMANN JAPAN TOUR 2025 ——ムーディーマン、久しぶりの来日ツアー、大阪公演はまだチケットあり
  15. Ches Smith - Clone Row | チェス・スミス
  16. Columns The TIMERS『35周年祝賀記念品』に寄せて
  17. Swans - Birthing | スワンズ
  18. rural 2025 ──テクノ、ハウス、実験音楽を横断する野外フェスが今年も開催
  19. interview with caroline いま、これほどロマンティックに聞こえる音楽はほかにない | キャロライン、インタヴュー
  20. David Byrne ──久々のニュー・アルバムが9月に登場

Home >  Reviews >  Album Reviews > 快速東京- ロックインジャパン

快速東京

快速東京

ロックインジャパン

Felicity

Amazon iTunes

三田 格   Jul 31,2012 UP

 僕のすぐ後ろから「外タレみたいだ!」という声がステージに向かって跳んだ。さっきからスイセイノボアーズ(SuiseiNoboAz)がなかなかいい演奏を繰り広げていた。昨年あたりから評判になっているバンドだという。凶暴なフィードバック・ノイズにはじまり、曲が進むにつれて、だんだん単純なロックン・ロールになっていく。ここは渋谷・宮益坂にあるラッシュというライヴハウスで、PAがとにかく素晴らしい。入場制限がかけられるほど内部はギュー込みで、このところ足を運んだライヴ・スペースでは圧倒的に年齢層が低い。こういうところにひとりでいると間が持たないし、ほとんど身動きもできないから不快指数が上昇するかと思いきや、なぜか非常に居心地がいい。高円寺の練習スタジオでスカートを観ていたときは足が攣りそうになって、さすがにギブ・アップしてしまったけれど、スイセイノボアーズから、そして、快速東京へとステージは進んでいく。快速東京が、そして......とんでもなかった。

 「外タレみたいだ!」と叫んでいたやつがヴォーカルだった。歌っていないときはフニャフニャしていて、重力との関係がどこか間違っているような背筋の伸ばし方。見てしまう。いや、人の目を否応もなく引き付ける。演奏がはじまると、音楽性は100%パンクである。しかも曲が短い。いまの曲は短かったなーと思っていたら、それは1曲じゃなくて2曲だったりするし、快速というのは、そういうことだったかと。しかも、歌詞がナンセンスで、演奏自体はシリアスに徹し(ある種、バカテクかも)、ヴォーカルの福田哲丸が体を振動させるスピードはニュー・オリンズ・バウンスよりもケイレン度が高い。なんというか、毒の持たせ方が電気グルーヴのようなスターリンというか......そう、スターリンが「ガリガリ君」とか歌ってる感じ。歌い終わると、またフニャ~。

 ライヴを観てからCDを聴くと、もはやCDとしての完成度がどうなのか、それを冷静に見極めることは難しい。ステージの模様を思い出して笑いがとまらなくなってしまうから。全16曲で18分。短い。ショート・パンク・ロックといういうらしい。パンク・ロック界の星新一とでもいうか。ロックンロールは人間じゃない、メタルマン髪の毛長いぜ、ヒマだから戦争しようぜ......もしかして「外タレみたいだ!」というのは日本の文化に馴染んでないぜという意味を含んでいたのかなと思えるほど、歌詞のセンスは日本語のそれでしかない。野田努先生のテーマ曲にすべき"ラブソング"は♪テレビをつければラブソング 街をあるいてもラブソング 聴きたくねーのにラブソング~と、Jポップ全体を一瞬にして敵にまわし、"パピプペパンク"では♪ロックもパンクもどうでもいいじゃん ロックもパンクもめんどくさいじゃん~と自分たちのやっていることも否定。"ゾンビ"はちょっと文学的で、♪最低な世界サヨナラできない~と、ある種の闇を覗かせる。エンディングはやけのはらをラップでフィーチャーした"敏感 ペットボトル PART 2"で、これがまたサイコーに自暴自棄。

 ......このまま行っちゃうのだろうか。それとも次のアルバムでは、長い曲か、遅い曲をやってみるのだろうか。そうだとしたら、その直前の瞬間は絶対にライヴを目撃しておきたいし、さらにいえば、つかみどころがないにもかかわらずポロっと毒がこぼれることもあるMCを聞いている限り、一度躓いてからが面白いバンドになるような......(短いですが、終わりにしましょう)。

三田 格