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insect taboo

insect taboo

SONGISM

Headz / Unknownmix

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松村正人   Nov 05,2012 UP

 オレはおもすごく太っ腹で大胆な男なのだ
 会社でビラまきしたら 家に電話がかかってきた
 「あんたの息子さんはアカです」と
 母さん落ち着き騒がず オイラにこういった
 「おまえの思った通りにやればいい」
 オレはおもすごく太っ腹で大胆な男なのだ」
想い出波止場 "太っ腹(玉砕ワルツ)"

 わたしは歌詞の引用を、干支がひとまわりするあいだに1回ないし2回することになっているが、虫博士率いるインセクト・タブーの『ソンギズム』を聴いて、この歌が自然に口をついたのはおそるべきことであった。想い出波止場の"太っ腹(玉砕ワルツ)"は「会社でビラまき」とあるから組合活動のことである。組合自体はアカでもなんでもない。ところが、労働者の正当な権利を主張する行為が、傍目(共同体に内在する監視の目)にはアカくうつる。赤い血をわけた家族はいわれなき批難にかぶりをふるが、そうしてみても、その否定は思考を経ない肯定を元にしているから否定ではなく思考停止である。というか、気まずい。「おまえの思った通りにやればいい」のウラには「おまえがアカであってもなくても、母さんは信じる」がある。団らんの場である茶の間でそんなこといわれようものなら空気はとたんに「3B金八」的な重さと湿り気を帯びてしまい、思想の立ち位置を意味していたはずの「アカ」はなぜかあらゆる中二病的ワードの代入可能な自意識の変数となり空転しはじめた。
 これはいたたまれない。
 オレが尾崎豊なら「盗んだバイクで走り出す」か「夜の校舎 窓ガラス 壊してまわ」ってまわることころだったが、残念ながらオレは尾崎ではない。だからオレは"太っ腹(玉砕ワルツ)"でその状況にドン・キホーテとして向き合うことで、問題を別の次元にズラすのだが、『水中JOE』がリリースされた90年代を雌伏し、その20年後にファースト・アルバムをリリースした虫博士=インセクト・タブーの手にかかると尾崎的自意識は「盗んだ校舎でバイクの窓を割る」("ブライハモドキ")へ、さらに位相がズレる。ハナからメタだった『ドン・キホーテ』はここで、すでに後編へ、さらにこみいった書く/書かれる、読む/読まれる関係に入っていくように見えるが、インセクト・タブーはその中間にある贋作『ドン・キホーテ』といったほうがしっくりくる。失礼ないい方かもしれないが。
 たとえば、例にあげた"ブライハモドキ"のエスニックな哀愁は、タイトルの通り、船戸与一的なデラシネ感、つまり団塊の世代の自意識(妄想)をパロディ化したように思えるが、サビで連呼する「ボヘミアン」は無頼派ワナビーの憧憬というより葛城ユキである。葛城ユキも団塊の世代だから問題ないにしても、かように、このアルバムは1曲のなかにいくつもの引用と隠喩と批評と象徴と笑いとかすかな怒りが輻輳した補助線が放射状の罅のごとく走っている。しかも音楽と言葉の両面にわたって。

 一人でもレーニン
 二人でもレーニン
 トリオを組んでもレーニン
 四人囃子もレーニン
 ゴレンジャーもレーニン
 ろくろっ首だよレーニン
 七人の侍レーニンさ
 つぼ八の店長レーニン
 坂本九は上向くレーニン
 十月十日で生まれるレーニン
 11PMの司会レーニンさ 
 12人の怒れるレーニン
 13階段昇ったレーニン
 14歳のチキンがレーニン
 15、16、17とわたしの青春レーニンだった
 18歳未満はレーニン
 19歳の地図にはレーニン
 24の瞳はレーニン
 80年代はレーガン

 彼方から無数のレーニンが
 縦一列に並んでジェンカ
 食料問題解決さ
 世界の人口レーニン

 笑っている君たちもレーニンさ 
 かく言う俺はホーチミン
"レーニン数え歌"

 オラは思わず1曲の歌詞の全文を書き出してしまっただが、トラップの多くは左翼言語であり、(「若い連中」というのもなんだが、まあとにかくヤングなひとびとと)笑いどころを共有していないことが前提になっているから、いきおいそれは場ちがいとなり、くすぶってくる。わかられていない状況が誘う笑いは苦笑か失笑である。そして音楽における笑いは言葉と音楽とパフォーマンスの主従関係において、音楽であろうとすればするほど、屈折せざるをえない。ボーイズものではこうはならない。インセクト・タブーはポルカ、カントリー、レゲエ、演歌、ボサノバ、ロックとポップス、そこらへんのあらゆる音楽を嚥下しようと試みる、形式的にはボーイズものといえなくもないが、クレイジーでもドリフでも、ポカスカジャンであっても、こと軽音楽の分野においては洒脱なツウ好みに流れがちな音楽を彼らは厳しくソウカツする。HOSEの宇波拓、作曲家でありヴォイス・パフォーマーである足立智美、コントラバスの即興における新世代の旗頭である河崎純、ビルやmmmの(バンドの)メンバーでもある下田温泉の四人の演奏がソンガーを自称する虫博士に、寄り添うような遠巻きにするような絶妙な距離をとるが、全体が一体となって誘導するコント~演劇的な空間(閉鎖)性はない。くりかえすが補助線は放射状である。いささか自虐的ではあるが、皮肉めいてはいない。「上から」の語りが説教か自分語りになる時代では、自己言及を抑圧し、その反動で前のめりになり、周回遅れで先頭に躍り出るしかない。虫博士はきっと、飲み会ではぐれていくひとだ。少人数の席ならかならずや本領を発揮するにちがいない。サシ飲みではむろんのこと相手が試される。わたしは何をいいたいか、もはやわからなくなったが、資料には、虫博士と古くからつきあいのある映画監督の古澤健氏が博士を評して、「同時代の音楽(※空手バカボン)を聴いて育ったんだな、と初期のころから他人とは思えないセンスに驚きと共感をもって聴いています」とコメントを寄せている。空手バカボンは、有頂天のケラと筋肉少女帯の大槻モヨコ(ケンヂ)、ベースで幼なじみの内田雄一郎のユニットである。人生のころの石野卓球が共感を抱いたグループであり、つまりナゴムの一面なのだが、80年代末のナゴムを追って、90年代のサブカルチャー(悪趣味とかモンドとか)を通過するとこうなるのは、同世代としてイヤんなるほどわかる。私はだから虫博士を支持するのではなく、『SONGISM』は記号とその列挙、それを乗せる音楽が村社会内での終わらない相互孫引き(=近親相姦)に反旗を翻すからでもなく、これが虫の目で見るインセクト・タブーだからである。虫の目は複眼だから像はひとつに結ばれない。村社会はおろか人間社会に属していないのでそもそもポップの定義が通用しない。ゆえに偏った言葉を雑多な回路で放出できる。須川才蔵氏のライナーノーツによれば、1997年の結成直後、インセクト・タブーは「音楽的には素っ頓狂なアナルコ・パンク」だったようだ。初のアルバム『SONGISM』はパンク色は減退したが、その目はまったく曇ってはいない。むしろ私はジャケをツラツラ眺めながら、"SONGISM"のタイトルが象徴するハードコア魂に思いあたったときに戦慄さえおぼえた、いろんな意味で。

■ライヴ情報

2012年11月18日(日)
Live & Bar Shibuya 7th Floor
UNKNOWNMIX presents
insect taboo 1st CDアルバム『SONGISM』発売記念ライブ
《ムシ・ロック・フェスティバル》

open 18:00 start 18:30
前売¥2000/当日¥2500(ともにdrink代別¥500)

出演:insect taboo / core of bells / mmm

(問)HEADZ Tel : 03-3770-5721 www.faderbyheadz.com

松村正人