ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Columns Electronica Classics ──いま聴き返したいエレクトロニカ・クラシックス10枚  | Alva noto、Fennesz、Jim O'Rourke
  2. Rashad Becker - The Incident | ラシャド・ベッカー
  3. Jane Remover - Revengeseekerz | ジェーン・リムーヴァー
  4. Stereolab ——日本でもっとも誤解され続けてきたインディ・ロック・バンド、ステレオラブが15年ぶりに復活
  5. rural 2025 ──テクノ、ハウス、実験音楽を横断する野外フェスが今年も開催
  6. Columns Stereolab ステレオラブはなぜ偉大だったのか
  7. interview with aya 口のなかのミミズの意味 | 新作を発表したアヤに話を訊く
  8. Ami Taf Ra ──新たに〈Brainfeeder〉に加わったアミ・タフ・ラ、新曲はカマシ・ワシントンがプロデュース
  9. caroline ──まもなく2枚目のリリースを控えるキャロライン、ついに初来日が決定
  10. Shuta Hasunuma ──蓮沼執太フィルがブルーノート東京での2年ぶりとなるコンサートを発表
  11. interview with Nate Chinen カマシ・ワシントンの登場が歴史的な瞬間だったことは否定しようがない | 『変わりゆくものを奏でる』著者ネイト・チネン、インタヴュー(前編)
  12. Hüma Utku - Dracones | フーマ・ウツク
  13. Mark Turner - We Raise Them To Lift Their Heads | マーク・ターナー
  14. interview with Mark Pritchard トム・ヨークとの共作を完成させたマーク・プリチャードに話を聞く
  15. 別冊ele-king 渡辺信一郎のめくるめく世界
  16. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第2回 ずっと夜でいたいのに――Boiler Roomをめぐるあれこれ
  17. Columns 特集 エレクトロニカ“新”新世紀
  18. Columns ♯13:声に羽が生えたなら——ジュリー・クルーズとコクトー・ツインズ、ドリーム・ポップの故郷
  19. Columns Electronica “New” Essential Discs ──エレクトロニカの“新”新世紀、シーンを書き換える16枚の注目作  | NHK、Actress、Holly Herndon
  20. caroline - caroline | キャロライン

Home >  Reviews >  Album Reviews > Prince Rama- Top Ten Hits of the End of the W…

Prince Rama

Prince Rama

Top Ten Hits of the End of the World

Paw Tracks

Amazon iTunes

橋元優歩   Dec 18,2012 UP

 ギャング・ギャング・ダンスがよりレフト・フィールドな感性に支えられ、また受け入れられていたのに対し、プリンス・ラマは、もっとずっと素朴な動機からトライバリズムへと向かったデュオではないかと思う。彼らのサイケデリアにおけるヒンドゥーなりアフリカなりチベットなりといった意匠は、ある意味では純粋というか、「なんとなく好きだからそうしているのー」というあけすけさが裏返ったような、奇妙な強度を持つものだ。
 先日のDOMMUNEや次号ele-kingの2012年総括座談会でも述べたが、ネットワーク化によって作品の発表形態や享受のありかたが決定的に多様化するなかで、人と音との関係の恣意性は上がっている。昨今「ロックを聴くならオアシスから」といったような定式がまるで見当たらないのは、ヒーロー不在のためなどではなく、ヒーロー不成立のためだ。興味が拡散し、ジャンルは細分化を極め、視聴可能な音源のアーカイヴも無限に膨張、昔の音がそしらぬ顔でいまの音に並ぶ(「昔の音はいまの音」三田格)......そのような地平で、われわれはまさにある音楽と「たまたま出会う」傾向を深めている。同座談会では、そんなリスナー実感を竹内正太郎がとても素直に述べている。このリアリティをピックアップしたかったので、タイトルは「僕らは偶然聴いている」とした。シニア組の座談会が「若者に反抗が戻ってきた!」という話からはじまるのと、おもしろい対照を生み出していると思う。宣伝、失礼しました。21日発売です。

 こうした傾向に照らし合わせるならば、プリンス・ラマの「少し遅れてきたブルックリン」的なトライバル・サイケは、まさに恣意的に選択されたスタイルだったのではないかと思い当たる。彼らは、それに向かうことになった動機に深く絡め取られることがない。もしこれがマジなトライバル志向や呪物崇拝に突き動かされた音楽だったのなら、今作のようなイメージ・チェンジはあり得なかっただろう(ジャケを見るだけでも明らかだ)。そのかわり、2000年代の終了とともにその存在も風化していったことだろうと思う。正直なところ手詰まりな感のあった音やキャラクターを、あっさりと翻すことができたのは、彼らのモチヴェーションの軽やかさのためではないか。今作においてはそうしたことがあらためて浮き彫りになった印象だ。

 しかし表層を離れると、彼らの一貫性もまた見えてくる。というか、『トップ・テン・ヒッツ・オブ・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド』というコンセプトが与えられたことで、これまでのエセ密教やエセ黒魔術的なトーンがすっかり相対化されてしまった。それらは今回のエセ・サイバーパンク同様、「世界の終わりのヒット・ナンバー10」のひとつだったのです、という具合である。じつに幻術的な縫合だ。しかし間違ってはいない。彼らの瞳のなかでは、どちらも同じようなものだったということだ。
 ジャケットでは、コンピュータの内部世界を記号的に表現した『トロン』的なマス目空間に、非西欧世界のモチーフがコラージュされている。ネット世界のゴミくずを適当にかき寄せるヴェイパーウェイヴ的な感性に共振するように見えるのは、やはり自らのトライバリズムに向かう姿勢が、ちょうどそれに類似したものだったからだろう。その意味では、本年作としても時宜を得た転身だったと言える。

 思いがけないところで、〈ノット・ノット・ファン〉~〈100%シルク〉にも接続した。ニューウェイヴィなディスコ・チューンに、ウィッチなヴォーカルがかぶさり、これまでの傾向を引き継ぐどろっとしたプロダクションで仕上げられている。アマンダ・ブラウン関連の諸作に並べられるだろうし、〈シルク〉の顕著なディスコ志向にも沿っている。音楽的にも脱皮を図った、というか、脱衣を図ったような変化と一貫性がみられる。アニマル・コレクティヴに見初められ、〈ポー・トラックス〉から出てきた彼らが、リアルな森ではなく、ヴァーチャルな情報の森に遊んでいることを感慨深く眺めた。1曲挙げるならば“ドーズ・フー・リヴ・フォー・ラヴ・ウィル・ラヴ・フォーエヴァー”か。

橋元優歩