ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Golem Mecanique - Siamo tutti in pericolo | ゴーレム・メカニーク
  2. Bon Iver - SABLE, fABLE | ボン・イヴェール、ジャスティン・ヴァーノン
  3. Knxwledge & Mndsgn ──〈Stones Throw〉からノレッジとマインドデザインが揃って来日、東京・福岡・大阪・名古屋をまわります
  4. SEEDA ──およそ13年ぶりのアルバムをリリース、完全受注生産でCD+Tシャツのセットが発売
  5. Nujabes Metaphorical Ensemble & Mark Farina ──ヌジャベスの音楽を未来につなげるイヴェント「flows」、会場ではマーク・ファリナのミックステープが先行販売
  6. Brian Eno ──ブライアン・イーノのジェネレイティヴなドキュメンタリー映画が東京・名古屋・大阪でも上映決定
  7. Sherelle - With A Vengeance | シュレル
  8. downt ──ニュー・シングル「AWAKE」が配信でリリース
  9. 型破りの夜 - ──Zoh Amba、アコースティック・ギターを手に
  10. interview with Primal 性、家族、労働  | プライマル、インタヴュー
  11. Columns R.I.P. Max Romeo 追悼マックス・ロミオ
  12. interview with Nate Chinen 21世紀のジャズから広がる鮮やかな物語の数々 | 『変わりゆくものを奏でる』著者ネイト・チネン、インタヴュー(前編)
  13. あたらしい散歩──専門家の目で東京を歩く
  14. Soundwalk Collective & Patti Smith ──「MODE 2025」はパティ・スミスとサウンドウォーク・コレクティヴのコラボレーション
  15. Jefre Cantu-Ledesma - Gift Songs | ジェフリー・キャントゥ=レデスマ
  16. 別冊ele-king VINYL GOES AROUND presents RECORD――レコード復権の時代に
  17. Seefeel - Quique (Redux) | シーフィール
  18. Actress - Grey Interiors / Actress - Tranzkript 1 | アクトレス
  19. Black Country, New Road - Forever Howlong | ブラック・カントリー、ニュー・ロード
  20. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第2回 ずっと夜でいたいのに――Boiler Roomをめぐるあれこれ

Home >  Reviews >  Album Reviews > Monopoly Child Star Searchers- The Garnet Toucan

Monopoly Child Star Searchers

Monopoly Child Star Searchers

The Garnet Toucan

Underwater Peoples Records

Amazon iTunes

Ian Drennan

Ian Drennan

The Wonderful World

Underwater Peoples Records

Amazon iTunes

三田 格   Jan 10,2013 UP

 なかなかいいレーベルになってきました。注目の〈アンダーウォーター・ピープルズ〉からまとめて2枚。

 ジェイムズ・フェラーロとのスケイターズやマーク・マッガイアーとのイナー・チューブでも知られるスペンサー・クラークことチャールズ・ベルリッツによるモノポリー・チャイルド・スター・サーチャーズ(以下、MCSS)名義の2作目(正確にはRを入れて3部作となるらしい)。最初から最後まで竹のような響きのパーカッションがフィーチャーされていた『バンブー・フォー・トゥー』(10)と同じくトライバル・サウンドにインプロヴァイゼイションを絡めたつくりながら、打楽器はやや背景に退かせて怪しげなメロディやSEを豊富に取り込み、全体に迷宮をさ迷わせるようなマジカル・ムードに転じている(前作が森の入り口なら、そのまま奥深くに進んできたというか)。レジデンツが『エスキモー』ではなく南洋の島を題材にし、それこそマーティン・デニーのカヴァーに取り組めばこうなるかなと思う反面、インチキ臭さをことさらにアピールしているわけでもないので、エキゾチック・サウンドの最新型として素直に楽しめる。イエロが脱力したようなスウィング・ムードも楽しく、曲のヴァリエイションも格段に増えた(前作の路線を追う人はむしろイナー・チューブと同じパシフィック・シティ・サウンド・ヴィジョンズからリリースされたフォース・ワールド・マガジン名義『スペクタクル・オブ・ライト・アブダクションズ』を)。

https://soundcloud.com/underwaterpeoples/sets/monopoly-child-star-searchers

 MCSSと同じく、デビューは〈オールド・イングリッシュ・スペリング・ビー〉からとなるビッグ・トラブルズからイアン・ドレナンのファースト・ソロはシューゲイザーを基本とした母体からは思いもよらないミュージック・コンクレートやアヴァン・ポップが雨あられ。音楽性があまりに違い過ぎて、最初は同姓同名ではないかと疑ったけれど、XTCとアンディ・パートリッジの関係を思えば、こういうこともたしかにあると。しかも、過去の実験音楽に対して造詣が深いとか、少なくとも手だれではないようで、あくまでもロック・ミュージシャンの視点で取り組んでいるので、初々しい視線が冴え渡り、けっこうなことをやっても重くならず、最初から最後まで可能性の三文字しか浮かんでこない。それこそサン・アロウ以来の快挙ではないだろうか。ミニマルかと思えばクルト・ワイル調、あるいは激しいカット・アップにスロー・テンポのホルガー・ヒラー。『ファイナル・ファンタジー』の音楽などで知られる葛生千夏が80年代に自主でリリースした「エレイン・ザ・フェアー」のカヴァーなどという稀少なこともやってたり。

https://soundcloud.com/underwaterpeoples/sets/ian-drennan-the-wonderful

 ドローンやノイズからハウスやチルウェイヴへ。そのような推移のなかでベルリッツやドレナンは実験的な精神を諦めてしまうことなく、別なフィールドに移し変えることで数多の同世代とは異なる道を必死に模索している。そして、それらは少なからずの成果に結びついていると僕には思えるし、実験的でありながらエンターテインメントとしても充分に機能したニューウェイヴ期の空気を思わせる。音楽がただ音楽としてあるだけで、いまだ哲学でもファッションでもない瞬間。〈アンダーウォーター・ピープルズ〉にジュリアン・リンチやドルフィンズ・イントゥー・ザ・フューチャーが集まってくる理由もそこにあるのだろう。

三田 格