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〈セイクリッド・ボーンズ〉のリリースはつねに筆者のメンタルに小骨を残していく。現代においてポスト・パンクを実験的に追求しつづけるレーベルと呼んで間違いないと思うが、ここのカタログの多くは決定的に運動音痴というか関節が固いというか、ポスト・パンク的なもののなかでもゴシックでダークな部分やノイズ寄りな部分を奇妙にこじらせていて、リズム、メロディ、ハーモニーという音楽の三大要素もほぼ見事に剥落、とくにリズムについてはたいてい快感メーターがマイナスに振り切れる。この嫌がられ要素に潔いほどまみれた作品群には、なるほど忘れがたい個性と屹立した存在感があるのだが、いまこれを聴きたい人ってどんな人なんだろう? といつも考えてしまう。悪い意味ではない。すごく極端な、おもしろい人物かもしれないと思う。同時になにかしら強烈な負の力を渦巻かせていたりする気もする。筆者がつるつる人間なだけなのだろうか。
というような理由で個人的に愛好することのなかった〈セイリレッド・ボーンズ〉だが、ラスト・フォー・ユースはちょっとびっくりした。同じように思っていた人や、〈キャプチャード・トラックス〉のなかでもとくにポスト・パンク寄りな作品を好む人などにはおすすめかもしれない。『パーフェクト・ヴュー』といいながら見通しの超きいてないジャケがまず素敵なんだけれども、こうしたセンスはめずらしい。時代から切り離されたような、古物商のカタログといった趣で並ぶこのレーベルの諸作のなかで、はっと目を引くに足りるアートワークである。ザ・メンなど皮肉やけれん味のない、ある意味ではピュアな芸術性を優先するようなジャケットに比して、ラスト・フォー・ユースにはよい意味でのいらだちや挑戦、意欲、ひねり、コンセプトを感じる。その意味でじつに色気がある。要は、自分たちと時代や世間とのあいだに距離があることを自覚しつつも、あまりそれと向き合う意志のなかったように感じられるレーベル・カタログのなかで、時代や世間に正対するように見えたのだ。ゆえに彼のダークウェイヴはみずみずしく力強い。
ビートは単調だがシンセが熱い。"アナザー・デイ"に溶け込んだニュー・オーダーは若くササクレていて、"パーフェクト・ヴュー"にはミニマルな展開の果てに完全なオマージュさえ見られるが、彼らの音を生き直してみせるという気概が感じられる。"バルセロナ"のごついアンビエントにも"ヴィブラント"のインダストリアルなサウンド・デザインにも、生き生きとした血の奔流がある。かつ、コールド・ケイヴよりもクールでやや内向的。アメリカの人かと思っていたがスウェーデンのアーティストだった。なるほど。読み方がわからないけれども名前はHannes Norrvide、2009年ごろより〈NNA〉などからのテープ作品のリリースが断続的につづいている。本作はいちおう3枚めのフル・アルバムとして説明されている。〈セイクリッド・ボーンズ〉とは、2012年に彼の過去作『グローイング・シーズ』をリイシューすることから関係がはじまっているようだ。出たばかりだけれども、はやくもダークウェイヴ買い忘れの一枚、そして得がたく美しい一枚になった。
橋元優歩