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Volcano Choir

ElectronicaFolkIndie RockPost-Rock

Volcano Choir

Repave

Jagjaguwar/Pヴァイン

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木津 毅   Aug 30,2013 UP

 この熱。火山を名前に冠したこのバンドの音は、まさに山から噴出する溶岩の赤の鮮烈さを思わせる。脈を打つようなドラム、あまりにも雄弁なギター・ワーク。血液の流れのようなドローン、陶酔的なアンビエンス、繊細なエレクトロニカ、ときに烈しさすら伴うゴスペルとソウル......。ヴォルケーノ・クワイアの音楽はつねに実験性の高さに貫かれながらも、それ以上にほとばしるような熱さこそがたまらない。これはまるで、生き物そのものだ。彼らが好んでモチーフに使う自然の風景それが、たしかに生きていることを音で示すようだ。

 このエモーションの奔流がどこで生まれたか、それを思うたびに僕はジャスティン・ヴァーノンの左胸のタトゥーのことを考える。誇らしげに刻まれたウィスコンシンの地形図......ボン・イヴェールのデビュー作が人びとの心を奪ったのは、その豊かな叙情がアメリカの片田舎のその奥からひっそりと声を上げたからである。だがそれは、けっして彼個人の才能に集約されるものではなかった......そこには彼のファミリーがいた。血縁だけでない、ともに音楽すなわちハーモニーを奏でる仲間たちだ。古くからの友情で成り立っているヴォルケーノ・クワイアは、ヴァーノンがグラミー賞のレッド・カーペットのその嘘くさい華やかさに背を向けて、帰る場所として選ぶのに相応しいバンドであり、共同体であったと、そういうことだ。
 ここからは堅い信頼が聞こえてくる。すでに豊かな叙情性に恵まれていたデビュー作『アンマップ』ですら、本作『リペイヴ』を聴くとまだ未完成のプロジェクトによる習作だったのだと思わされる。『アンマップ』の時点では、前身をペレとするコレクションズ・コロニーズ・オブ・ビーズポスト・ロック、ジョン・ミューラーのドローン、トーマス・ウィンセックのエレクトロニカ、ジャスティン・ヴァーノンのアンビエント・フォークとゴスペル、といったように簡単に見取り図が描けたのだが、日本ツアーを経てファームなバンドとなった後の本作では、それら個々人の音楽的語彙がすべてシームレスになり、そしてその上でスタジアム・バンドを思わせるほどのアンセミックな展開が用意されている。とくに前半4曲の勢いはドラマティックで、"タイドレイズ"でのじっくりと演奏されるアコースティック・ギターのイントロが、シングル"バイゴーン"でのヴァーノンの叫びに向かって開かれていく流れはそれだけでひとつの物語のようだ。全体的に言えばボン・イヴェールのセカンドと『アンマップ』の間のどこかに位置しているかもしれないが、前者より複雑な実験性があり、後者よりもメロディアスでポップな感触がある。
 穏やかなアンビエント・フォーク・ナンバー"アラスカンズ"で始まるアルバム後半は、よりねじれたソウルへと分け入っていく。なかでもロバート・ワイアットがブライアン・イーノのサウンドで聖歌を歌うような"キール"、そしてエレクトロニクスとギターがスリリングなせめぎ合いを見せる"アルマナク"のラスト2曲は、メロディ・ラインの半音のニュアンスに背中を撫でられているような生々しさを覚える。今回ヴァーノンは楽器をほとんど弾かずに歌に専念しているせいもあるだろう、アルバムを通して低音からファルセット、エフェクト・ヴォイスまでを駆使しながらほぼひとりで「聖歌隊」の多彩なエモーションを次々と産み落としていく。

 "アラスカンズ"で引用されているサンプリングは、死について書かれたチャールズ・ブコウスキーの詩の朗読だという。思えばブコウスキーもまた、強烈なパーソナリティを持っていながらも、アメリカの埋もれた生を象徴するような存在だ。忘れ去られた場所から生まれるエモーションや死生観......ヴォルケーノ・クワイアが鳴らしているのもまた、そのようなものではないか。
 しかしながら結局のところ、バンドは素朴な前向きさに突き動かされているように僕には思える。この凛とした音には、太い背骨があるからだ。浮ついた世界とは無縁の連中が、地面に足をつけてまっすぐに立っている音楽だ。"バイゴーン"でヴァーノンが「Set Sail!」、すなわち「出帆だ!」と叫ぶとき、それを聴くわたしたちの視界はどこまでも開かれている。

木津 毅