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フェニックスのレヴューで、「日本人は英語でロックを歌うべきだった」と書いたけど、デストロイヤーの最新EPはスペイン語で歌われている。どないなってるねんである。
デストロイヤーことダン・ベイハーがスペイン語で歌っていると聞いたときは、ウェス・アンダーソンの映画『ライフ・アクアティック』で話題になったあのデヴィッド・ボウイのいなたいスペイン語ボサノヴァ・カヴァーな感じでくるのかなと思ったら、けっこう正統派でびっくりした。『カプート』でデストロイヤーの音が完全に完成したから、それをぶち壊したという意味でのスペイン語だったと思うのだが、ただスペイン語で歌っているだけやん、と笑ってしまった。
でも、音楽を変えるとかじゃなく、違う国の言葉で歌うことで、新しい音楽を生もうとしているのは、なかなか面白い試みだなと思った。デストロイヤーは音楽スタイルを変えることで前進してきたのかなと思っていたのですが、違っていたのですね。彼が自らの音楽を「ヨーロピアン・ブルース」と言っていた意味がなんとなくわかりました。彼にとって表現とは旅なんですよ。彼はずっとどこにも所属しない異邦人なんです。唯一彼を癒してくれるものは音楽だけだった。彼にとって言葉はただの記号で、それほど重要なものじゃなかったのでしょう。メロディに癖を与えてくれるものくらいにしか考えていなかったのでしょう。
このEPで、僕はデストロイヤーというアーティストが、どういうアーティストかというのがよくわかりました。彼が好きであろう、スコット・ウォーカー、ダンカン・ブラウン、ダンカン・ブラウンを彼が好きなのかどうなのか、僕は知らないですが、でもデストロイヤーを聴いていて、いつも僕が思い出すのはメトロなんです。異邦人の音楽ですよね。
この頃、日本人は英語で歌えと思っていたんですけど、このデストロイヤーのEPを聴いていて、日本人はもっと異邦人にならないといけないんじゃないという思いました。
デストロイヤーの気持ちよさってこれですよね。帰るところのない人間の悲しさ。そんな人には言葉なんて無意味なんですよ。ジプシーたちはまさにそんな感じで旅をしながら、そのエリアの言葉をマネして、小銭を稼いでいたんだと思います。僕らの音楽の原点にはそういうものがあるんですよ、きっと。
ちょっといろいろ考えさせられたデストロイヤーの新作でした。
久保憲司