ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Juan Atkins ──デトロイト・テクノの創始者、ホアン・アトキンスが日韓ツアー、来日は13年ぶり
  2. R.I.P. Sensational (Colin Julius Bobb) センセーショナルとの思い出
  3. 自転車日記 - デヴィッド・バーン 著 / 東辻賢治郎 訳
  4. The Durutti Column - Renascent | ザ・ドゥルッティ・コラム
  5. Various - Peace Anthems | レッド・フック・レコーズ
  6. Cornelius ──ドキュメンタリー映像シリーズ第4弾が公開
  7. レイヴ・カルチャー──エクスタシー文化とアシッド・ハウスの物語
  8. 未来マニア──エレクトロニック・ミュージック・ガイド
  9. interview with Toru Hashimoto 橋本徹がブラジリアン&ブリージンなコンピに込めた渋谷系の哲学 | 『Free Soul』&『Cafe Apres-midi』最新作をめぐって
  10. HOUSE definitive 増補改訂版
  11. ああ、リンコ、リンコ、リンコ ──菊地凛子主演(&ブレイディみかこの息子出演)の『ラスト・サマー』がイタリア映画祭で上映へ
  12. Columns Techno Walk 大阪~ベルリン、テクノ散歩
  13. THE CROWD──ele-king presents HIP HOP JAPAN
  14. interview with Juan Atkins 愛してるぜ。オレたちはVery Sexy Funkyナイトをともにするんだ。準備をしておいてくれよ!
  15. Kassel Jaeger - Sub Re | カッセル・イェーガー
  16. Columns スクエアプッシャーはいつだってテクノロジーの限界を超えていく ――7月20日(月祝)@昭和音楽大学、特別講義のレポート
  17. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  18. Technics ──SL-1200シリーズ誕生55周年記念、¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$UによるDJが配信
  19. 野田 努
  20. Hajime Tachibana ——プラスチックス結成50周年、立花ハジメがニュー・アルバム『dad bb』、12インチ・シングル「ZOUNDS!」をリリース

Home >  Reviews >  Album Reviews > Julianna Barwick- Rosabi

Julianna Barwick

AmbientNoise

Julianna Barwick

Rosabi

Dead Oceans

iTunes

橋元優歩   Jun 19,2014 UP

 本作『ロサビ』は、デラウェアはミルトンのブルワリー、〈ドッグフィッシュ・ヘッド・ブルワリー〉と、ジュリアナ・バーウィックとのコラボレーション作品である。正確に言えばこのEPだけでは本作は不完全だ。なぜなら、『ロサビ』とはこの企画よって生まれたペール・エールの名であって、ボトルと10インチとが同梱されたものが出荷を待っている。やっぱり、それを味わいながら聴いてみたい。

 ロサビを飲みながら聴きたいというのは、気分の問題からというだけではない。この企画自体が、両者のあいだにおいて、時間的にも内容的にもわりとじっくりと進められたという背景を知ればこそである。スタートは2013年、バーウィックがドッグフィッシュ・ヘッドの新しい醸造所に招かれて従業員たちの前で演奏を披露するところからはじまる。そこはカテドラルのような環境だということだから、バーウィックの音楽と演奏スタイルにぴったりとはまっただろう。そののちに本作収録曲が編まれるわけだが、ドッグフィッシュ・ヘッド側からはビールの製造過程において生まれるさまざまな音──醸造、発酵、濾過、そしてボトリングにおいて発生するノイズが提供された。バーウィックはループ・ペダルによって自身の声をレイヤーしていくあの特徴的なスタイルに、ロサビのための一層を加える。

 ぶつぶつ、こぷこぷ、ガシャンガシャン。あらためてビールを製造している音だということに思いを馳せるとなんだか可笑しいが、そんなふうにどことなくコミカルな、弾むような炭酸っ気と、このエクスペリメンタルなブルワリーを支える従業員たちの心意気や精神、ビール好きだというバーウィックのキャラクターが、彼女のヴォーカル・ループにじつに気持ちよく、のびやかに織り合わされている。つけ加えると、ロサビにはわさびが入っているそうだ。筆者はわさびが苦手で、サビ抜きじゃない寿司を出されると親にキレたりしていたが、「苦みとホップのようなハーバル・ノーツが加わった日本の根菜類」なんて表現されるとちょっとトライしてみようかという気持ちになる。さわやかで、しかしちょっと実験的な性格をもったビールなのだ。

 波が寄せるように、一息ぶんのフレーズが穏やかに高低し、層を重ねていく。バーウィックについては何度も書いてきたので多くを割かないが、彼女をヴォーカリストや歌姫の類に括るのは正確ではないと思う。声楽も学んでいるけれど、彼女が明確な旋律と構成をそなえた「ソング」を歌った作品は『オンブレ』(2012、アスマティック・キティ)というヘラド・ネグロとのコラボ作のみである。むしろ即興性を軸としてサウンド・デザインを施していくスタイルが特徴で、どちらかというと音響派に連なるアーティストだ。そしてまた、リニアな時間性をもつ「ソング」が終曲とともにその単一の時間を完結させ、閉じるものであるのに対し、バーウィックのコンポジションは複数の時間を綴じるように成立している。その意味で、本来こうしたコラボレーションと相性のよいものなのかもしれない。
 ちなみに、“トゥー・ムーンズ”においてアナログ・シンセがフィーチャーされているところが小さな新機軸ではあるが、大部分はいつものジュリアナ・バーウィックである。工場のフィールド・レコ―ディングからのサンプリングが、低域をけずられてきらきらと輝いている。リヴァービーにひきのばされて、ホップが踊る愉快な時間と響き合っている。ブルワリーの創設者にして社長であるサム・カラジオーネは、バーウィックの習慣にとらわれない音楽スタイルが好きで、それは自身のビール製造への思いと変わらないのだと述べる。この企画の銘柄にかぎらず、どこか独創的で若々しい社風を想像させるメッセージだ。そんなブルワリーの気質と、ロサビの楽しくて気持ちのよい性格が、残響のなかから立ち上がってくる。


橋元優歩