Home > Reviews > Album Reviews > Sendai- Ground And Figure
最近、『ピッチフォーク』がIDMのベスト50を特集したのだが、それを眺めていて思わず「懐かしい」という気分になり、自分でも驚いてしまった。最近作も入っているのだけれど、やはり00年代初頭のアルバムが目立つ。いやはや、ゼロ年代の電子音楽も懐古の対象になったというべきか。かつての最先端も歴史化したというべきか。プレフューズ73のセカンド・アルバム・ジャケットをこんな気分で見ることになるなんて、00年代初頭には思いもしなかった。しかし、15年前となれば、今の30歳が15歳のときだ。時は流れる。人は等しく歳をとる。
だが、「歴史化した」ということは、半端な古さが消え去り、新しい時代のモードとして再利用(リサイクル/リバイバル)される時期になったという意味でもある。20年という期間はリバイバルにはちょうどいい「寝かしどき」だ。90年代から00年代初頭のIDMが、2016年あたりから、また再活用されてはいないか。セコンド・ウーマンしかり。ベーシック・リズムしかり。ダークなインダストリアル/テクノの潮流がひと段落ついた後だからこそ、あの時代のミニマルな音響工作が、見直され/聴き直されつつあるということなのだろうか。このセンダイも、そういったIDMリバイバルの一端に組み込むことは可能だ。
センダイは、ベルギーはブリュッセル出身・現ベルリン在住のミニマル・テクノ・アーテティスト、ピーター・ヴァン・ホーセンと、同じくベルギー出身のサウンド・アーティスト、イヴ・ド・メイのユニットである。これまで〈タイム・トゥ・エクスプレス〉から『ジオトープ』(2012)、ピーター・ヴァン・ホーセンとイヴ・ド・メイが主宰する〈アルシーヴ・アンテリュール〉から『ア・スモーラー・ディヴァイド』などをリリースしており、『グラウンド・アンド・フィギュア』はサード・アルバムとなる。
昨年は、いささかリリース・ラッシュ気味だったイヴ・ド・メイ(アルバム『ドローン・ウィズ・シャドウ・ペンズ』とEP『レイト・ナイト・パッチング 1』を発表した)だが、このセンダイでは、ソロでは聴くことができないIDM/テクノなサウンドを展開している。もしかすると、ピーター・ヴァン・ホーセン主導のサウンドなのだろうが、そこにイヴ・ド・メイ的な音響工作が良いアクセントになっている。
つまり、このマシニックで、トリッキーで、クリッキーなサウンドは非常に心地よいのだ。1曲め“002 Archiefkwestie”からして、細やかで精密なビート・プログラミングに、清潔なアンビエントのアトモスフィアまで兼ね備えた見事なトラックで、高品質な仕上がり。
また、“Apopads”、“Perfect Boulevard Exclusive”、“W180215Yves-PVH-R”などのトラックは、ドローンやノイズの扱いなどエクスペリメンタル/インダスリアルなムードもあるが、しかし、過激さ・過剰さの一歩手前で留まるような全体のバランス感覚が絶妙である。
アルバム全体として、まるで漂白されたようなホワイト・ミニマルな質感を維持しており、ビートの入ったインダスリアルな環境音楽としても機能しそうなほどに端正な仕上がり。本作のリリースは〈エディションズ・メゴ〉だが、ルーシー主宰の〈ステレオフォニック・アーティファクト〉的な精密なマシン・ミニマル・テクノなのである。近年のIDMアルバムの中でも、ひと際、優れた作品に思えた。
デンシノオト