Home > Reviews > Album Reviews > Jane Weaver- Modern Kosmology
ここ最近、個性派と言われる女性アーティストたちの作品が面白い。インタヴューでも取り上げられたフアナ・モリーナの『ヘイロー』があり、ステレオラブのレティシア・サディエールのユニットであるソース・アンサンブルの『ファインド・ミー・ファインディング・ユー』、ナイト・ジュエルの『リアル・ハイ』など、サウンドの種類は様々だが、力作が集中している。これからリリースされるローレル・ヘイローの『ダスト』もお勧めしたい作品だ。そして、ジェーン・ウィーヴァーの『モダン・コスモロジー』も、個人的に好きでよく聴く1枚である。ジェーン・ウィーヴァーはイギリスのリヴァプール出身のシンガー・ソングライター及びギタリストで、マンチェスターを拠点に活動している。フアナ・モリーナやレティシア・サディエール同様にキャリアは長く、1990年代にはキル・ローラというブリット・ポップ・グループで、2000年代はミスティ・ディクソンというフォークトロニカ系ユニットで活動していた。ソロ活動は1998年からおこなっており、アルバムは自身で主宰する〈バード〉というレーベルを中心に、コラボ作品やライブラリー作品など含め10枚近くリリースしている。ちなみに、この〈バード〉はバッドリー・ドローン・ボーイことダモン・ゴフとアンディ・ヴォーテルが運営する〈ツイステッド・ナーヴ〉傘下にあり、ウィーヴァーはヴォーテルの奥方でもある。
ウィーヴァーのソロ初期作は、たとえばアコースティック系ポップス、インディ・フォーク、エクスペリメンタル・ロック、ネオ・クラシカルなどに分類されていたが、2014年リリースの『ザ・シルヴァー・グローブ』では作風が変化している。アンジェイ・ズラウスキー監督によるポーランドのSF映画『銀の惑星』から着想を得て、クラウト・ロック系のサイボトロンのメンバーから、バッドリー・ドローン・ボーイやデヴィッド・ホルムズなどが参加した作品となった。スペース・ロックの始祖のホークウィンドからサンプリングし、エレクトロニクスを大幅に取り入れたサイケ・ロック~スペース・ロックを展開している。アンディ・ヴォーテルによるリイシュー専門レーベルの〈ファインダーズ・キーパーズ〉と〈バード〉から共同リリースされ、ヴォーテルによるSF風の印象的なジャケットもあり、新作なのに1970年代のコズミック・サウンドを想起させる不思議なものだった。続く2015年作『ザ・アンバー・ライト』は、『ザ・シルヴァー・グローブ』収録曲のリミックスも交えた作品。ウィーヴァーはシンセ、ギター、パーカッション、ヴィブラフォン、ツィター、チューブラー・ベルズなどを操り、シンセ・ポップからタンジェリン・ドリーム風のアンビエントな作品までやっている。
この最新作『モダン・コスモロジー』は、ペル・ウブなどの作品を発表するロンドンのインディ・レーベルの〈ファイア〉からのリリースだが、内容としては『ザ・シルヴァー・グローブ』と『ザ・アンバー・ライト』の路線を引き継いでいる。スウェーデンの抽象絵画のパイオニアであるヒルマ・アフ・クリントの名前から名付けられたスペース・ロックの“H>A>K”、そしてイタロ・コズミックの流れを汲むような“ディド・ユー・シー・バタフライズ?”という冒頭の2曲は、そうしたアルバムの色合いを端的に示している。“ジ・アーキテクト”もアシッドな質感のエレクトロ・ジャズ・ロックで、タイトル曲の“モダン・コスモロジー”はヴォーカルの質感も重なって、レティシア・サディエールやステレオラブの作品に通じるところもあるが、やはりここでも過剰なエフェクトがサイケデリックな効果を上げ、ロサンジェルスのピーキング・ライツあたりに近い作品だろう。“レイヴンズポイント”もエフェクティヴな1曲で、こちらはインド音楽のようなエキゾティックな旋律を持つ。“スロウ・モーション”はアルバム中でもっともポップな作品。“ザ・ライトニング・バック”とともに、ジュリア・ホルターやナイト・ジュエルなどのシンセ・ポップ系作品と言えるだろう。“ループス・イン・ザ・シークレット・ソサエティ”はアコースティック・ギターによるシンプルなフォーク・ロックだが、全体に1960年代のヒッピー・カルチャーやフラワー・ムーヴメントの薫りが漂う。“ヴァレー”もピンク・フロイドのアコースティックな作品に通じるムードを持ち、フォーク・ロック系の“アイ・ウィッシュ”はレトロな質感のエレクトロニクス処理により、独特のサイケデリアを生み出している。フアナ・モリーナはじめ冒頭に挙げた女性アーティストたちは、それぞれ音響効果を巧みに用いて作品を作っているが、『モダン・コスモロジー』もアコースティックとエレクトロニクスの融合を、音響効果によって最大限に引き上げたアルバムとなるだろう。
小川充