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In Death's Dream Kingdom

Houndstooth

野田努   Feb 26,2018 UP

 ロンドンのテクノ系レーベル〈Houndstooth〉(Call SuperやSpecial Requestの作品で知られる)の最新コンピレーションをここに挙げたのは、T.S.エリオットの詩、「The Hollow Men(空ろな人間たち)」の一節=『死せる夢の王国』をアルバム・タイトルにしているからではない。Lanark Artefax(ラナーク・アートファックス)の新曲“Styx”が聴けるからである。とくにエイフェックス・ツインのファンには聴いて欲しい。彼はここでドリルンベースとBurialを繋いでいる、いわば“Girl/Boy Song”のダークコア・ヴァージョンを披露する。昨年リリースされたペシミストのアルバムとも通底しているジャングルの変型。“Styx”は彼の前作にあたる「Whities 011」ほどではないが、悪くない。

 ラナーク・アートファックス、本名Calum MacRae(キャラン・マクレー)について簡単に紹介しておこう。グラスゴー出身の彼は、地元のDJ、ハドソン・モホークやラスティー、地元のレーベル〈LuckyMe〉や〈Numbers〉を聴きながら15歳で音楽をつくりはじめている。もっと大きな影響はエイフェックス・ツインとオウテカ、90年代のIDM、90年代の〈Warp〉。まあ、なかなかのオタクである(つーか、編集部小林じゃん)。初めて聴いたAFXは『ドラックス』だったそうで、たしかにあれもジャングルだが、個人的にはいまµ-Ziqの『Bluff Limbo』を聴くとすごくハマる。

 『死せる夢の王国』は、総勢25人のアーティストが参加している。そのなかには、コージー・ファニ・トゥッティと三田格推しのガゼル・ツイン、都会の下水のごとくこうした荒涼たる世界とは縁のないように見える伊達伯欣先生が絶賛のトモコ・ソヴァージュ、ほかに名が知れたところでは、Batuであるとか、Hodgeであるとか……の曲がある。とはいえ、全編通しての暗黒郷はひどく疲れるので、掻い摘んで聴くのがいいだろう。これはフィジカル無しの配信のみで、曲数も25。長いし、T.S.エリオットの「The Hollow Men」とは「こんな風に世界は終わる/こんな風に世界は終わる」というリフレインが最後にある長編詩で、そんな言葉がしっくるきてしまうのがいまのロンドンということだろう。

 ニューウェイヴの時代にもゴスはあったが、おおよそグラムの延長だった。不動産を買ってイングランドの土地の一部を所有するところから『ドラキュラ』がはじまることの意味とは関係なかったし、T.S.エリオットへの言及もなかった。が、ここ何年も続いているゴシックは、本当の意味でヴィクリア朝時代から第一次大戦後までのあいだ、長きにわたって続いたあの頃のゴシックに通じている。
 いま人は黒い服を好んでいる。黒い服は喪服だ。ヴィクトリア朝女王は早くに夫を亡くした未亡人であり、夫の死に執着する彼女は40年ものあいだ喪服を着続けた。いろんな喪服(黒服)がデザインされ、黒は大衆的にも流行った。そしてヴィクトリア朝女王は、未来よりも懐かしい過去、家族が幸福だった過去にしがみつくかのように、(19世紀なんで当たり前だが)モノクロの家族写真を飾った。
 また、ちょうどこの時代はテクノロジーの時代でもあった。電信機、カメラ、タイプライターに蓄音機、そして映画。先にぼくは伊達伯欣先生とは無縁に見えると書いたが、いや、科学が人間から奪ったものを意識しているという点では、漢方医の彼もまた充分にゴシックなのだ(!)。ゴシックは、小説にしろ絵画にしろ、やがて映画にしろ、社会で湧き上がる不安や不吉なざわめきを反映し、本能的なレベルで訴えるものが多い。……誰もがカラフルだった90年代初頭のような夏は本当にまた来るのかね。

野田努