ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 忌野清志郎 - Memphis
  2. interview with Kazufumi Kodama どうしようもない「悲しみ」というものが、ずっとあるんですよ | こだま和文、『COVER曲集 ♪ともしび♪』について語る
  3. R.I.P. Shane MacGowan 追悼:シェイン・マガウアン
  4. Element ──日本のダブ・レーベル〈Riddim Chango〉が新たにサブレーベルを始動、第1弾は実験的ダンスホール
  5. interview with Lucy Railton ルーシー・レイルトンの「聴こえない音」について渡邊琢磨が訊く
  6. Alvvays - @神田スクエアホール | オールウェイズ
  7. André 3000 - New Blue Sun | アンドレ3000
  8. Robert Hood & Femi Kuti ──デトロイト・テクノ×アフロビート、ロバート・フッドとフェミ・クティによる共作が登場
  9. interview with Shinya Tsukamoto 「戦争が終わっても、ぜんぜん戦争は終わってないと思っていた人たちがたくさんいたことがわかったんですね」 | ──新作『ほかげ』をめぐる、塚本晋也インタヴュー
  10. ele-king Powerd by DOMMUNE | エレキング
  11. Felix Kubin ——ドイツ電子音楽界における鬼才のなかの鬼才、フェリックス・クービンの若き日の記録がリイシュー
  12. Blue Iverson (Dean Blunt) ──ディーン・ブラントが突如新たな名義でアルバムをリリース、無料ダウンロード可
  13. WaqWaq Kingdom - Hot Pot Totto | ワクワク・キングダム
  14. Jim O'Rourke & Takuro Okada ──年明け最初の注目公演、ジム・オルークと岡田拓郎による2マン・ライヴ
  15. TOKYO DUB ATTACK 2023 ——東京ダブの祭典で年を越そう
  16. interview with Waajeed デトロイト・ハイテック・ジャズの思い出  | ──元スラム・ヴィレッジのプロデューサー、ワジード来日インタヴュー
  17. AMBIENT KYOTO 2023 ──好評につき会期延長が決定、コラボ・イベントもまもなく
  18. Slowdive - everything is alive | スロウダイヴ
  19. 忌野清志郎 - COMPILED EPLP ~ALL TIME SINGLE COLLECTION~
  20. Oneohtrix Point Never - Again

Home >  Reviews >  Album Reviews > The Mauskovic Dance Band- The Mauskovic Dance Band

The Mauskovic Dance Band

Afro-CaribbeanDiscoFunka LatinaNew Wave

The Mauskovic Dance Band

The Mauskovic Dance Band

Soundway

Tower HMV Amazon iTunes

小川充   Aug 02,2019 UP

 かつて1950年代から1960年代にかけて、ダンスホールやクラブには専属のバンドやオーケストラがいて、その頃のダンス音楽の主流であるラテンやアフロ・キューバンの生演奏を繰り広げる時代があった。その後1970年代に入り、ダンスホールはディスコティークに取って替わられて、バンドの役割も次第にDJへと変換していくわけだが、当時のディスコ時代でもMFSBやサルソウル・オーケストラなどはそうしたダンス・バンドの系譜を受け継ぐ存在で、バンドからDJカルチャーへの橋渡しをおこなった。ヨーロッパにおいても同様で、1950年代から1970年代にかけては多くのラテン・バンドが存在していた。ベルギーやオランダではニコ・ゴメス楽団、チャカチャス、エル・チックルズ、ショコラッツといったグループが活動していて、チャカチャスの“ジャングル・フィーヴァー”はムード・ラテンにディスコを取り入れた最初の例として世界中で大ヒットした。ベルギーとフランスの混成バンドのショコラッツは、セローンやドン・レイがいたコンガスと共にアフロ/ラテン~トロピカル・ディスコを確立した。オランダを拠点とするニック・マウスコヴィッチ率いるダンス・バンドは、それらかつてのラテン・ディスコ・バンドの現代版と言える存在だ。

 ニック・マウスコヴィッチはアムステルダムで活動するマルチ・ミュージシャン/プロデューサーで、トルコ系のミュージシャンたちによるサイケ/フォーク・バンドのアルティン・ガンに参加する一方で、マルチ・ミュージシャンのジャコ・ガードナーとニューウェイヴ/バレアリック・ディスコ・ユニットのブラクサスを組んでいる。そんなニックによる5人組ダンス・バンドは、彼の兄弟のチョコレート・スペース・ドニー(キーボード、エフェクト)、マーニックス(ギター、シンセ、パーカッション)、マノ(ベース)が中心となり、そこにクンビア・ミュージシャンのフアン・ハンドレッド(ドラムス)が加わっている。2017年にデビューしてスイスのレーベル〈ボンゴ・ジョー〉からシングルを2枚リリースし、その後2018年にアフロやカリビアンなどワールド・ミュージック/辺境音楽系に強いUKの〈サウンドウェイ〉から「ダウン・イン・ザ・ベースメント」というEPをリリース。この中の“コンティニュー・ザ・ファン(スペース・ヴァージョン)”という曲がジャイルス・ピーターソンのコンピ『ブラウンズウッド・バブラーズ・13』に収録され、彼の催す「ワールドワイド・アワーズ・2018」の“トラック・オブ・ザ・イヤー”にノミネートされるなどして注目を集める。そして7インチの“シングス・トゥ・ドゥ”を経て、ファースト・アルバムとなる本作を〈サウンドウェイ〉からリリースという流れとなる。アムステルダムのスタジオで録音された本作は、現在ポルトガルのリズボン在住のジャコ・ガードナーによってミックスされた。

 ザ・マウスコヴィッチ・ダンス・バンドのサウンドは、直接的には1980年代前半頃のアフロやラテン・ジャズと結びついたオルタナティヴ・ディスコやエレクトロ、ポストパンク~ニューウェイヴ・ディスコの中でも特にパーカッシヴでトライバルなサウンド、あるいはファンクとラテンが結びついたファンカラティーナなどの影響が強い。具体名を挙げればUSならアーサー・ラッセルによるダイナソー・Lやインディアン・オーシャン、オーガスト・ダーネルによるキッド・クレオール&ザ・ココナッツやサヴァンナ・バンド、リキッド・リキッド、コンク、ワズ・ノット・ワズ、UKならファンカポリタン、モダン・ロマンス、ブルー・ロンド・ア・ラ・ターク、ファンボーイ・スリー、ピッグバッグ、リップ・リグ&パニックなどだろうか。彼らのサウンドに共通するのは、どこか特定の国の本格的な民族音楽に倣うのではなく、世界の様々な民族音楽や辺境音楽をゴチャ混ぜにしたような無国籍感が漂うもので、ある意味で本場のサウンドではない偽物ならではの怪しさが漂うものだった(さらにそれらの源にあるのは、マーティン・デニーやレス・バクスターなど1950~60年代のエキゾティック・サウンドだろう)。
 ザ・マウスコヴィッチ・ダンス・バンドもそうしたB級感覚を継承していて、それこそがダンス・バンドといういかがわしい存在を体現している。チープなドラムマシーンやアナログ・シンセにキーを外したヴォーカルがフィーチャーされる“ドリンクス・バイ・ザ・シー”や“セイム・ヘッズ”がまさにそうで、1980年代のレトロ感満載のサウンドだ。性急なビートの“スペース・ドラム・マシーン”やファンカラティーナ調の“ダンス・プレイス・ガレージ”は、パラダイス・ガレージでラリー・レヴァンがプレイしていたようなアンダーグラウンド感一杯のもの。“パーカッション・アンド・スパジオ・サウンズ”は文字通りマッドでコズミックなパーカッション・トラック。スティールパンのようなパーカッションの音色が印象的な“アルト・イン・ヴァカンザ”では、このバンドにとってダビーなテイストも重要な要素であることを示していいて、“レイト・ナイト・ピープル”や“イッツ・ザ・ロング・グッディ”にもそうしたディスコ・ダブの要素が表われている。レトロなラテン・バンド・スタイルを下敷きにしつつ、ニューウェイヴ・ディスコやディスコ・ダブの要素を交えて現代的にアップデートさせた彼らは、2010年代以降のヴェイパーウェイヴの流れの中にも位置づけられる存在と言えるだろう。

小川充