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Sefi Zisling

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Sefi Zisling

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小川充   Jan 20,2020 UP

 ベーシストとトランペットの両アヴィシャイ・コーエンやシャイ・マエストロ、オメル・アヴィダルなど、現在のコンテンポラリー・ジャズ界ではイスラエル出身のミュージシャンが高い評価を集めている。彼らの多くはニューヨークを拠点に活動し、世界的に有名なプレイヤーとなっているのだが、近年のイスラエルでは新しいミュージシャンもいろいろ出てきており、ジャズに限らず様々な分野の音楽シーンで活躍している。たとえばネオ・ソウルやR&B方面で注目されたJ・ラモッタ・スズメ(彼女はもともとジャズ・トランペッターでビートメイキングもおこなう)、ジャズと民族音楽、ソウルとビート・ミュージックを融合したバターリング・トリオ、そのメンバーのリジョイサーことユヴァル・ハヴキンほか、ピアニストのニタイ・ハーシュコヴィッツ、ドラマーのソル・モンクことアヴィ・コーエンらが結成した新ユニットのタイム・グローヴなどは日本でも話題になったアーティストだ。そのタイム・グローヴにも参加していて、ほかにもいろいろなプロジェクトで多彩な活動を行なうトランペット奏者、セフィ・ジスリングも近年の注目株のひとりである。

 テル・アヴィヴ出身でテルマ・イェリン芸術学校に学んだセフィ・ジスリングは、同校出身のリジョイサーや彼が主宰するレーベルの〈ロウ・テープス〉周辺で活動してきた。昨年デビュー・アルバムをリリースしたリキッド・サルーンもこの周辺から生まれたアフロ・ジャズ・バンドで、セフィとドラマーのアミール・ブレスラー、キーボード奏者/プロデューサーのノモックことノアム・ハヴキンが組んでいる。ほかにもソウル/ファンク・バンドのメン・オブ・ノース・カントリーやファンケンシュタイン、ロックやサイケ、ブルースやカントリーなどのミクスチャー・バンドのラミレス・ブラザーズといろいろなバンドで演奏しているが、彼の音楽の大きな柱となっているのがジャズとファンクとアフロで、リジョイサーをプロデューサーに迎えて〈ロウ・テープス〉からリリースしたファースト・ソロ・アルバム『ビヨンド・ザ・シングス・アイ・ノウ』(2017年)は、そんな彼の資質にビート・ミュージック的なエッセンスや抒情性も交えた好作品となっていた。それから2年半ぶりの新作『エクスパンス』はUKの〈トゥルー・ソウツ〉からのリリースということで、彼の注目度が世界的に増していることが伺える。

 演奏メンバーはセフィのほかにノアム・ハヴキン(キーボード)、オムリ・シャニ(ベース)、トム・ボーリング(ドラムス)、イダン・カッペバーグ(パーカッション)、ウジ・ラミレス(ギター)、ヤイル・スラツキ(トロンボーン)、ヤロン・オウザナ(トロンボーン)、ショロミ・アロン(テナー・サックス)、アイヤル・タルムディ(テナー・サックス)、ノアム・ドレムバス(アルト・サックス、パーカッション)、サチャル・ジヴ(フレンチ・ホルン)など、『ビヨンド・ザ・シングス・アイ・ノウ』及びリキッド・サルーン、ファンケンシュタイン、ラミレス・ブラザーズなどで共演してきたミュージシャンが参加。またヴォーカルでバターリング・トリオのケレン・ダンや、ジャスミンとライラのモアレム姉妹が参加するほか、イスラエル出身のDJ/マルチ・ミュージシャンとして世界的に有名なクティマンもヴィヴラフォン、パーカッション、キーボードでゲスト演奏をおこなっている。

 『ビヨンド・ザ・シングス・アイ・ノウ』に比べて、『エクスパンス』は1960年代のジャズ・ファンクのようなオーガニックな音色が前面に出ていて、より生音らしいアルバム作りがおこなわれている。変拍子のアフロ・キューバン・ジャズの “ハイ・ライド” がその筆頭で、セフィのトランペットはじめホーン・セクションやキーボードなどが作り上げる重厚で迫力のある演奏を楽しめる。最近はこうした1960年代風のサウンドを聴くことが少なくなっていたので、逆に新鮮でもある。ケレン・ダンとジャスミンとライラのモアレム姉妹を配した “ザ・スカイ・シングス” は、アフロの要素の入ったジャズ・ファンクにソフト・サイケとムード音楽が結びついたような妖しいコーラスが異彩を放つ。クティマンの参加した “ハッピー・ソウル・リターン” はもっともアフロビートの色合いが強い曲で、演奏者全員が作り出すグルーヴが素晴らしい。ほかにもスロー・ナンバーの “オンゴーイング・モーニング” での哀愁に満ちた深遠な演奏、“エピローグ” でのフリーフォームなインプロヴィゼイションとさまざまな魅力が詰まったアルバムとなっており、イスラエルの新しいジャズ・シーンを知るのに最適な一枚と言える。


小川充