Home > Reviews > Album Reviews > Femi Kuti & Made Kuti- Legacy+
故フェラ・クティの息子のなかでフェミ・クティとシェウン・クティは、ともに父親の遺志を引き継ぐような活動を行なっている。ともにフェラと同じくサックスを演奏しながら歌うスタイルだが、年齢は親子ほど違う腹違いの兄弟で、フェミにはメイドという息子もいる。メイドはフェラから見て孫にあたるわけだが、彼もまたサックスやトランペットを吹くミュージシャンで、父親のフェミのバンドでも演奏している。その親子の連作となる『レガシー+』は、フェミ・クティの『ストップ・ザ・ヘイト』と、メイド・クティの『フォワード』をカップリングしたアルバムとなり、作品自体はそれぞれ独立したものとなっている。
フェミやシェウンはフェラの音楽性を引き継ぐとともに政治的姿勢も引き継いでおり、ナイジェリアの政治や社会に対するメッセージや批判、風刺をいろいろな作品に込めてきた。近年はシェウンの方が政治色が強く、ロバート・グラスパーのプロデュースで『ブラック・タイムズ』(2018年)のように過激なアルバムも出しているのだが、フェミの『ストップ・ザ・ヘイト』もタイトルからしてメッセージ色の強い作品となっている。そうしたメッセージ性に合わせ、ここ最近のフェミのアルバムのなかでも極めて強力なアフロビートを聴くことができる。冒頭の“パ・パ・パ”はスピード感に満ちたアフロビートで、ナイジェリア政府への批判の一方で強くダンスを煽るサウンドだ。アフロビートはダンスと政治を結び付けた音楽でもあるが、それを体現する楽曲である。
クティ一族の楽曲に多く出てくるワードに「ガヴァメント(政府)」「ストラグル(闘争)」「エネミー(敵)」「ファイト(戦闘)」「コラプション(腐敗)」などがあるが、『ストップ・ザ・ヘイト』には“アズ・ウィ・ストラグル・エヴリデイ”“ナ・ビッグマニズム・スポイル・ガヴァメント”“ユー・キャント・ファイト・コラプション・ウィズ・コラプション”といった楽曲がある。ビッグマニズムとはナイジェリアの軍事独裁政権のことを指しているが、ナイジェリアは1960年の独立以来軍部と大統領や政党の間で政治が揺れ動き、現在のミャンマー情勢のようなクーデターが多発してきた歴史がある。政治家の汚職や議会の腐敗が頻発する中で、痛烈に政府批判を行うフェラ・クティは軍部や秘密警察から目をつけられ、それに対抗して自らカラクタ共和国を設立し、「ブラック・プレジデント」を名乗ってきたわけだが、そうした遺志を引き継いでシェウンは抗議活動の「オキュパイ・ナイジェリア」に参加し、フェミも『ストップ・ザ・ヘイト』のようなアルバムを作っている。“ユー・キャント・ファイト・コラプション・ウィズ・コラプション”は、腐敗を糾弾する者もまた腐敗しているという皮肉に満ちた内容だが、それが現在のナイジェリアの政治問題の根深さを物語っている。ただ、最後に“ヤング・ボーイ/ヤング・ガール”“セット・ユア・マインズ・アンド・ソウルズ・フリー”という曲を持ってきて、淀んだ空気の現在の中にも未来へ繋がる夢や希望を見出そうという姿勢が伺える。
メイド・クティの『フォワード』は“ユア・エネミー”のような作品もあるが、どちらかと言えば“フリー・ユア・マインド”“ブラッド”“ウィ・アー・ストロング”など抽象的なイメージに基づく楽曲が多い。フェミの“ヤング・ボーイ/ヤング・ガール”に対し、意図したのか偶然かわからないが、“ヤング・レディ”というアンサー・ソング的な楽曲もある。この“ヤング・レディ”や“ユア・エネミー”のように、レゲエに通じるレイドバックした雰囲気がメイドの持ち味のようだ。同じアフロビートでも、フェラやその直系のフェミのような戦闘的なスタイルとは異なるテイストを持ち、またすべての楽器とプログラミングを行うというマルチなスタイルで、まさにナイジェリアの新世代を打ち出す作品となっている。
小川充