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Microcorps

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XMIT

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野田努   Jul 08,2021 UP
E王

 聴覚表現というのは、実体のない“音”を見えた気にする幻覚効果もあって、ときに人は視覚的なサウンドなどと言ってみたりするのだが、これはたいてい視覚的イメージの想像を促すという意味で使っている。マイクロコープスのファースト・アルバムを聴いていると、魔獣のごとき迫力をもったエレクトロニック・ミュージックがクローネンバーグの映画さながら暴れ回っているように感じる。しかしながら緊急事態宣言下でオリンピックが開催されるというこの倒錯した現実のなかで暮らしていると、むしろ現実のほうがシュールすぎて、自分の想像力の矮小さが嘆かわしくも感じる。コロナ以降、世界は変わらず不安定なままで、喧々ゴウゴウと情報合戦も続いている。マイクロコープスの迫力ある不気味さは、いまの時代の奇妙な状態を反映しているとも言えるだろう。

 『XMIT』はマイクロコープスのファースト・アルバムだが、作者のアレクサンダー・タッカーは10年以上のキャリアを持つベテランで、〈スリル・ジョッキー〉などから何枚ものアルバムを出している多作の人だ。ただしそのほとんどがロック系に分類されているので、マイクロコープスは彼のテクノ・プロジェクトになるのだろう。テクノといってもこれは、クラフトワークではなくスロッビング・グリッスルのほうに近い。ロボティックでもなければファンキーでもないが、暗喩的で、特異で破壊的な魅力を秘めている。

 その世界は興味深いゲスト陣の名前からもうかがえる。いまやUKでもっともラディカルな電子音楽家のひとりのガゼル・ツイン、デレク・ジャーマン映画のサウンドトラックや〈Mute〉からの作品で知られるサイモン・フィッシャー・ターナー、そしてファクトリー・フロアやカーター、トゥッティ、ヴォイドのメンバーとして知られるニック・ヴォイド、ペーパー・ドールハウス名義でダーク・アンビエントを作っているアストラッド・スティーハウダー。これらゲストが参加した曲には各々の個性が注入され、格別に出来が良い。忍び寄る恐怖を絶妙に描いているガゼル・ツインが参加した“XEM”、異世界における妖美なダンスを展開するニック・ヴォイドとの“ILIN”はとくに印象的で、「H.R.ギーガーの絵画の聴覚表現」ないしは「世界に放棄されたダンスフロア」などという評価がされるのもむべなるかなだ。10年代に〈Blackest Ever Black〉がやっていたことをさらに拡張したというか。

 レーベルはヘルムことルーク・ヤンガー主宰の〈オルター〉、急進的なエレクトロニック作品やポスト・パンク作品のリリースによって評価を高めている。言うなればテクノとパンクのごった煮で、コロナ以降の世界ではより存在感を高めていきそうだ。

野田努