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SPARTA

Hip HopRap

SPARTA

兆し

htb Originals

宮崎敬太   Jul 26,2021 UP

 新しい音楽に出会ったときのわくわく感がある。

 実を言うと、トラップ以降に登場したオートチューンをかけて歌うフロウのラップが苦手だった。もちろんなかには好きな曲もある。ただ自分がなんでしっくりこないのかずっとわからなくて、「俺は時代に付いて行けてないのか」、なんなら「本当はヒップホップ好きじゃないんじゃないか」というレベルで悩んでいた。

 最近 SPARTA のライヴを観る機会があった。新型コロナウイルスの感染拡大予防対策で、観客は声出し禁止の公演だったので、演者からするとやりづらさもあったはず。だがその状況で SPARTA は音楽でコミュニケーションをとりながら素晴らしいパフォーマンスをしていた。彼は KOHH からの影響を公言していて、いわゆるトラップ以降の歌うフロウを多用する。だけどめっちゃ好きだった。なにせ彼は歌がうまいのだ。声量もしっかりあって、オートチューンを使いこなしてる感じがあった。

 そこから仙人掌、鎮座DOPENESS、Moment Joon とマイクリレーした Red Bull RASEN、さらに ISSUGI、SANTAWORLDVIEW との “POSSIBLE” を見て「間違いなく好き」と確信した。

 じゃあ SPARTA は何が違うのかと『兆し』もがっつり聴いてみると、とにかくメロディーが多彩なのだ。特に自分はもともとUKロックが大好きで、USのグランジ・ムーヴメントの時期に青春を過ごしたから、感覚的に音楽の好き嫌いをメロディーで決めている節があることに気づいた。トラップの歌はメロディーというよりあくまでリズム重視のフロウで、ラップほど角がなく、聴いていてバラエティに欠ける気がしてしまい、それが自分のなかの違和感につながっていた。

『兆し』は SPARTA のメロディー・センスがさらに際立つ作品だ。トラックもメロディアスだが、そこに引っ張られすぎない。SPARTA のアプローチが独特で、ラップと歌の引き出しも多い。だが奇をてらっている感はなく、全体的な印象はあくまでオーセンティック。だから新しい音楽に出会ったときのわくわく感がある。

 個人的に好きな曲はまず “One By One”。同じくメロディー・センスに定評のあるプロデューサー・KM との相性の良さを感じさせる。単語単位で押韻していく「でかいでかい舞台 狭い世界向かい 深く誓い/願う未来 偉大 偉大 未開 開き 明るい兆しと朝日が登るよう」というラインが特に好きだ。CM曲に起用されればいいのに。次の “Jungle feat. anddy toy store” も四つ打ちのヒップホップ好きとしてはたまらない。プロデューサーの Mizukami はアルバムの前半3曲を手がける No Beer Team のメンバーでもある。客演の anddy toy store とスイッチする場所も面白い。

 いちばんのお気に入りは、これまた KM トラックになるが先行曲 “Stay Humble” だ。トラックと SPARTA の個性が絡み合い、複雑なメロディーとグルーヴを作り出している。音楽へのひたむきさをポジティヴに表現した強力なフック「Gold chain Money n Bitchで?/見てる先はその上/まだまだ足りないって/お金でも買えない/誰も教えない/俺ならできるはず」もいい。力が出る。「辞めちゃいけない人生を」というラインに説得力を持たせる。

 メロディーやラップのアプローチは複雑でユニークだが楽曲としてはキャッチー。しかもリリックのステイトメントはポジティヴ。背伸びしない自分の言葉をラップにしているのもいい。こういう人を “センスがいい” と言うのだと思った。

宮崎敬太