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Ashley Paul

Avant-garde JazzExperimental Pop

Ashley Paul

I Am Fog

Orange Milk Records

Bandcamp

野田努 Aug 22,2022 UP

 アシュリー・ポールは、すでに10年以上のキャリア持つ音楽家で、それこそ10年前は、日本でもよく知られるイーライ・ケスラーと何枚も共同作品を発表している。ふたりはその頃、ニューヨークで共同生活を営んでいた。それから彼女は大西洋を渡って、イギリスを拠点に音楽活動を続けている。
 アメリカ中西部のアイオワ州はデモインで生まれた彼女の音楽の素地は、彼女の育ち(ジャズギターを弾く父、クラシック・ピアノに長けた姉のいる音楽一家)のなかで萌芽し、ニューヨークでの大学時代に多くの養分を吸収している。幼少期よりポール・デズモンドに憧れ、「将来はサックス奏者になる」と言い回ったほど早熟だったポールは、そして実際サックス奏者となるわけだが、19歳でアート・リンゼイに衝撃受けると、実験的な音楽やインプロヴィゼーションに惹かれていった。かくして彼女は、大学院で学位を取ってからも毎日地下鉄で6時間演奏するような生活をしばらく送ることになる(だから最初の1年間は、小銭で食事代を払い、家賃を払うにもすべて1ドル札だった)。そんなわけで、彼女のボヘミアン的な生き方は、彼女の音楽にも直結しているように思う。
 
 〈オレンジ・ミルク〉からリリースされた『 I Am Fog(私は霧)』は彼女の最新作で、ここにはジャズの実験とポスト・パンク的な失敗を恐れないアプローチがあり、そしてこの音楽はグルーパーやリーア・バートゥチの作品ようにマージナルな領域で身を潜めている。ポールは歌い、そしてサックスとクラリネットを演奏し、オットー・ウィルバーグとヨニ・シルヴァーがコントラバスとバスクラリネットでサポートする。音数は少ない。9分近くある1曲目の“A Feeling”では、楽器は旋律を奏でるというよりもドローンに引き伸ばされている。曲全体がスクリューされたかのようなこの曲の灰色の沈黙は、しかし奇妙なほど穏やかでもあり、切なくもある。ベースとドラムに導かれて、サックスによる不協和音が挿入されると歌が繰り返される“Escape”は、フライング・リザーズの前衛ジャズ・ヴァージョンだ。なかば絶望的なムードからはじまる“The Sun is Out”は、秋の気配を感じる今日ではいっそう心に染みる曲だが、彼女はこのやるせない無調な日々のなかに希望を見いだそうとする。
 元々ボヘミアン気質のあった彼女の「自由が奪われた」コロナ禍において制作されたこのアルバムは、全体的に不安定さを貫き、色彩を奪われたかのような荒涼さが広がる。かつてピート・スワンソンから「もっとも硬派なノイズ野郎の首の後ろの毛を立たせる」と形容されたその声は、孤独で、ときおり悲しみの表情を見せている。しかしながらこれは親密な音楽で、空間的でもある。椅子に座って聴いていると、自分のすぐ前に小さなステージがあり、手の届くところで3人が演奏しているように感じられる。グルーパーのように、彼女も唯一無二の音楽をやり続けている希有なアーティストのひとりで、その音楽は柔らかく美しい。もっと日本でも注目されていいと思う。

野田努

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