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OZmotic & Fennesz

AmbientExperimental

OZmotic & Fennesz

Senzatempo

Touch

デンシノオト May 02,2023 UP

 ロマンティック。ノイズ。アンビエンス。グリッチ。電子音。エレクトリック・ギター。それらの音の交錯から生まれるクリスチャン・フェネスの電子音響は、晩夏の記憶、もしくは真冬の光景のようなロマンティックな感情/感覚を引き起こしてくれる。彼は「黄昏」の音響を鳴らし続ける音楽家なのである。

 2019年にリリースされた前作『Agora』から4年。フェネスの新作アルバムが英国の実験音楽レーベル〈touch〉からリリースされた。とはいえ今回はソロ・アルバムではない。イタリア・トリノのデュオ(サックス奏者とパーカッション奏者)オズモティック(OZmotic)との共作である。
 しかしながらアルバムの隅々から横溢しているロマンティックな響きは紛れもなくクリスチャン・フェネスのサウンドだった。電子音響によるロマン派の交響曲とでもいうべきか。その壮大なサウンドは快楽的ですらある。さすがあの『マーラー・リミックス』を手掛けたフェネスだ。
 だがよく聴き込むとフェネス的ではない音が溶け合うように散りばめられていることもわかってくる。細やかなリズム。メタリックな打撃音。微かなパルス音。ここにコラボレーションの意味があるのだろう。異なる音と音の交錯と融合。

 フェネスとオズモティックとの共作は2015年の『AirEffec』以来だ。前作『AirEffec』にはジャズ的な要素があったが、今作はより電子音響/アンビエント的なサウンドになっているのが特徴といえる。より「フェネス」的と感じられる所以はそのあたりにある。オズモティックも2018年に〈touch〉からアンビエント・ジャズの秀作『Elusive Balance』をリリースしているので、彼らの今の方向性がうまい具合にミックスされた結果かもしれない。

 本作『Senzatempo』のはじまりは2019年にまでさかのぼるという。トリオとしての最後のライヴの後、彼らはメールでのやりとりを繰り返し、アルバムのコンセプトを固めていった。そして2021年11月に、念願かなってのスタジオ・セッションがイタリアでおこなわれた。
 いわばコロナ禍を経ての制作だったわけだが、このアルバムにはコロナの「閉塞感」はない。むしろイタリアの陽光のような解放感がある。その解放的な音の波にのって聴き込んでいくと、日々の煩わしい時間からひととき解き放たれ、眩い陽光のもと音の海を漂うような快楽を得ることできるほどである。
 アルバムは長尺4曲が収録されているが、アルバムを象徴する曲は、なんといっても1曲目 “Senzatempo” であろう。まず小さな打撃音のようなノイズから曲がはじまる。そして管弦楽を一部を反復するようなフレーズが鳴りはじめ、微かなノイズと微細なパルス音のような音が左右から聴こえてくる。次第により大きな波を描くようにロマンティックな弦楽のようなサウンドもレイヤーされ、スケールの大きい音響世界を生成していくだろう。
 その後しばらくはいかにもフェネス的な電子音響/アンビエント・ノイズが生成されていくが、やがて微かなビートのような音が折り重なりはじまる。しかもどこかドラムンベース的な高速な刻みを聴かせるのだが、サウンド自体は低音で身体に作用する音ではなく、ノイズ・レイヤーに折り重なるように細やかに鳴っている。これまでのフェネスの音にはなかった要素であり、オズモティックとのコラボレーションゆえに表出したサウンドかもしれない。
 そしてポスト・ロック的ともいえるエレクトリック・ギターの深く乾いた響きが、全体のサウンドとアンサンブルとアンビエンスを崩さないように、繊細し、しかし力強く重なっていく。その時点で、さきほどまでの小さなビートは影を潜め、20世紀、最後のロマン派、もしくは21世紀最初のロマン派とでも形容したい電子音響/アンビエントが雄大に鳴り響いているのだ。
 やがて楽曲はコーダを迎えるかのように、終わりを意識させる音へと変化する。冒頭のエモーショナルな旋律を反復し、雨の終わりのようなポツポツというノイズが折り重なり、曲は静かに終わるを迎える。
 2曲目 “Floating Time” では1曲目 “Senzatempo” よりも落ち着いたトーンで展開する。おそらくはフェネスのものであろうエレクトリック・ギターが鳴り響き、それにパルスのような電子音がうっすらとリズムを刻んでいく。
 3曲目 “Motionless” は、ロマンティックな音の雨のなか、ノイズからフレージングまでが暗い世界から光を希求するようなエモーショナルに展開する。続く4曲目 “Movements l – ll” も同様のトーンの楽曲だが、サウンドは煌めくような金属的な響きを持っている。終盤にはメタリックな打撃音に鳴りはじめるパートもあり、1曲目 “Senzatempo” のリズム・レイヤーとの共通性を感じさせるが、こちらの方がより全面的に「リズム」を展開させている点が特徴だ。最終曲という意味では、このパートがアルバムのクライマックスを担っているのかもしれない。そして衝撃的な一音でアルバムは見事に幕を閉じる。
 この曲は仮想空間のシューゲイザーと電子的にグリッチするロマン派の楽曲の融合とでもいうへきサウンド構築し、まさに1曲目 “Senzatempo” と並ぶ曲のように思えた。
 本作では、ロマンティックな「電子音響交響楽」とでもいうべきサウンドスケープが生まれている。ジョン・ヴォゼンクロフトによる素晴らしいアートワークの効果もあり、別の並行世界に煌めく「夏の光景」を聴いているような感覚を覚えもした。フェネスとオズモティックの深化を見せつけるアルバムといえよう。

デンシノオト