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小林拓音
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー通算10枚目のオリジナル・アルバム『Again』は、これまでのOPNらしさと未知の世界、双方を探索する果敢な1枚に仕上がっている。
いろんな音の断片が予想しづらいタイミングで入れかわり立ちかわり登場する点において、本作はコラージュ的だ。そこは『Age Of』と似ている。あるいは『Replica』までの彼を特徴づけていたJUNO-60とおぼしきシンセ音の挿入。それはすでに『GOD』『Age Of』『mOPN』でも試みられていたことだけれど、今回はだいぶ頻度が高い(ちなみに今年10周年を迎えた名作『R+7』がいまでも新鮮に響くのは、その音色に頼らなかったからかもしれない)。
他方で『Again』は新しい試みに満ちてもいる。アルバムを円環構造にするNOMADアンサンブル(指揮はロンドン・コンテンポラリー・オーケストラ創設者のロバート・エイムズ)の演奏。ソニック・ユースのリー・ラナルド、ジム・オルーク、LAの実験的ロック・バンド、シュー・シューの参加。話題のOpenAI社製品の導入。けれどもそれらはあくまで全体を構成する要素の一部にとどまっている。
今回の新作は「半自伝的」三部作の完結編であり、また「思弁的自伝」なのだという。ダニエル・ロパティンはキャリアの初期からずっと、過去や記憶にたいする強いこだわりを見せてきた。すでにそれは彼の作家性になっている。興味深いのは、『Again』が「半」自伝的であり「思弁的」自伝だと主張されている点だろう。つまり、本作は自伝ではないのだ。
振り返れば、OPNが活躍した2010年代はネットやスマホやSNSの普及により、だれもかれもが手軽に自分をアピールできるようになった時代だった。みずからをダシにすることでロパティンは、そういうオンライン上にあふれる無数の「わたし」をアートとして表現しているようにも思える。
だからこそいちばんグッときたのは “World Outside” のリリックだった。小刻みな電子音。パーカッション的な役割を果たす吐息。弦。『R+7』風の声楽。ロパティン本人によるキャッチーな歌。ノイズ。そしてギター。それらが主導権争いを繰り広げるこの曲では、「World Outside(外の世界)」なるフレーズが繰り返されている。
インタヴューを読むかぎりこれは、20代はじめのティーンエイジャーでもなければオトナでもない微妙な時期に「外の世界(outside world)」の気まぐれに振りまわされたことを主題にしているのだろう。ただ本作が自伝ではないことを踏まえるなら、西海岸が用意した「わたし」だらけの世界の外部を希求しているようにも聞こえる。こんな世界は嫌だ、と。
一見自分史をテーマにした『Again』はまさにそのコンセプトのおかげで、みなが自分へと向かう現代のすぐれた診断にもなっているのだ。
小林拓音