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曽我部恵一BAND

合評

曽我部恵一BAND

Rose Records

Apr 16,2012 UP 文:木津 毅、竹内正太郎
12

季節を背に 文:木津 毅

「人生は前にしか進まない。後ろに進んだら大変だ」 
――アキ・カウリスマキ『過去のない男』より


曽我部恵一BAND
Rose Records

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 どこかのインタヴューで、曽我部恵一がアキ・カウリスマキの作品を観ていたく感銘を受けたと話していたのを読んだ記憶があるが、それは非常に納得のいくものっだった。僕にとっては、フィンランドで自分のスタイルを頑なに曲げずに映画を撮り続けてきたカウリスマキと、曽我部恵一が表現していることは極めて近いところにあるように思えるからだ。そして、そのキャリアのなかでも態度としてもっとも近いのが曽我部恵一BANDであって......いや、まずは、カウリスマキの話からはじめよう。
 アキ・カウリスマキが映画で主人公に据えるのは、必ずと言っていいほど経済的な弱者や労働者だ。しかもそれは、格差やホームレス、グローバリズムや失業といった同時代の社会問題を反映させたものであり、彼らは豊かな国・フィンランドのイメージから程遠い貧しい暮らしをしている。だが、カウリスマキの映画なかでは、彼らは貧しく生きていない。監督が敬愛する古典映画のスタイルを借りてきて作り上げた厳格なミニマリズムのなかで、貧しき者たちは映画の主人公となる。彼らは終始無表情だが、とりあえず前を向き、そして恋をしたり労働をしたり、あるいはファム・ファタールに惑わされたりしながら(!)、なぜだか味わい深い物語を生きていくのだ。
 曽我部恵一BANDがファースト・アルバムでやっていたことはまさにそれだった。大して金もなく何ら特別でもない、迷ってばかりの若者たちがそこでは歌の主人公となって、ロックンロールの力でリリカルな物語を転がっていく。冒頭で引用した台詞は、ホームレス同然の暮らしをしているおじさんが場末の酒場で呟くものだ。曽我部恵一が、天使を「サラリーマン風の、冴えないおじさん」だとしたのととても似通ってはいないだろうか。

 ただしこれまでのアルバムでは、そうして匿名的に物語を紡ぎつつも、曽我部恵一やバンド・メンバーの固有性もその内側に入り込んでいた。バンドにとって3作目となるこのセルフ・タイトル・アルバムにおいてもそれは変わらないが、15曲で70分近いヴォリュームを通して、より群像劇的な、短編小説集のような形式になっている。オープニングの"ソング・フォー・シェルター"では、とりあえず曽我部恵一そのひとの言葉で幕を開けるが、そこにエフェクト・ヴォイスを駆使したコーラスを重ねることによって、多声的なものとして視点を広げている。そうして、15曲で様々な男女の生活の描写やそこに宿る感情がひとつずつ現れて去っていく。また、これまで曽我部恵一BANDがやってきたようながむしゃらなロックンロールだけでなく、思いがけずグルーヴィなダンス・フィールがある"ロックンロール"、アンビエント風の小さなトラック"誕生"、ノイズがとめどなく流れて収拾のつかないまま終わる"胸いっぱいの愛"、ラフな録音の生々しいフォーク・チューン"たんぽぽ"......と音楽的にも雑多だ。より多くの登場人物が、ここには集まっているようだ。
 そしてこれまでよりも、遥かに苦い味が加わっている。胸がときめくようなラヴ・ソングも変わらずあるが、それ以上に、やりきれなさ、無力感、行き場のなさ......そうしたものがこのアルバムをどうしようもなく貫いているように思える。冒頭の"ソング・フォー・シェルター"で設定されるのは、「壁に貼ったジョーストラマーのポスターがはがれ落ちる」、そんな地点だ。「今日のサイレン/明日の雨/この歌は僕たちの隠れ家のため」――非常事態を経験した、その後を生きるわたしたちの歌。曽我部恵一BANDはかつて、青春そのものを、迷える若者たちのある種代役としてロックンロールを鳴らすことで生き直すようなことをしていた。しかしバンドは、ここではその季節を後にしようとしている。
 なかでも象徴的なのは"街の冬"だ。生活保護を必要とする「とっても仲のいい」姉妹と、事務的な対応をするしかない区役所のおじさん。その侘しいはずの物語はしかし、アップテンポの激しいロックンロールで演奏される。あくまで温かく語られる姉妹の日々、上りつめるエレキのソロ、悪戯っぽく跳ね回る鍵盤、そして着地点を見つけないまま疾走し続けるビート! ここではたしかに貧困が描かれているが、絶対にそれを貧しい生き方として扱いはしない。その気迫において、この曲を社会や政治の歌だと簡単に呼ぶことは憚られてしまう。これはつまるところ、この国の片隅で埋もれそうになっている、ある人生についての歌だ。僕には生活保護ギリギリの生活をしている知人もいるし、公務員をしている友人もいるが、彼らが共に毎日必死に生活していることを知っている。空疎なシステムが生み出したそのあいだの埋まらない溝でこそ、曽我部恵一BANDはロールする。

 そうしてアルバムは、ラスト・トラック"満員電車は走る"へと集約されていく。興味深いのは、ブルース・スプリングスティーンの新作『レッキング・ボール』に収録された"ランド・オブ・ホープ・アンド・ドリームズ"とモチーフが共通していることだ。その「国」にいるあらゆる人間を乗せて、走る汽車/電車......。ただ決定的に違っているのは、スプリングスティーンが記号的に様々な人間を汽車に乗せるのに対して、曽我部恵一は満員電車に乗るひとびとの生活を具体的に活写していることだ。そして前者が、それがたとえアメリカン・ドリームの破れかぶれの残滓としての「希望と夢の土地」だとしても目的地を持っているのに対して、後者には向かう場所などない。ただ、「からっぽの心を詰め込んで」わたしたちの満員電車は走るのである。それがこの国だということなのだろう。もはや明るい未来なんてまったく見えない場所でこそ、このフォーク・ソングは鳴らされているようなのである。それでも、人生は前にしか進まないのだから。
 最後には、また曽我部恵一そのひとが発声したものへと言葉は還っていく。「心がどうしようもないとき/あなたの心が壊れてしまいそうなとき/音楽は流れているかい?/そのとき音楽は流れているかい?」

文:木津 毅

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