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FUJI ROCK FESTIVAL '11

FUJI ROCK FESTIVAL '11

@苗場スキー場

日時 2011年7月29日~31日

木津 毅   Aug 08,2011 UP

 日本には2、3万人ほど、盆休みよりも7月最終週の週末に休みを必死で取る人種がいる。彼らにとって、いや僕たちにとって苗場は故郷のようなもので、日本で最大級の野外フェスティヴァルであるフジロックフェスティヴァルが開かれるその週末は、ほぼ必ずそこに「帰省する」ことになっているのだ。

 僕が初めてフジロックに参加したのは2003年のことで、当時18歳の僕は大阪から12時間ほどかけて青春18切符で苗場にひとりで行った。僕なりにいろいろと調べて行ったつもりだったのだけれど、それでも認識が甘かった。眼鏡が吹っ飛んで壊れ、姉のスペイン土産だった腕時計も吹っ飛んで壊れ、両足靴擦れで流血し、ペース配分もよく分からないまま初日から雨に打たれまくり3日目の昼間には草むらで気絶していた。で......アンダーワールドとビョークを、それはたくさんの人がいる山の中で興奮して叫んで踊りながら観た。いい大人が心の底から楽しんでいる、開放されている姿をひたすら見続けた。こんな場所がこの日本にあることが10代の自分には衝撃的で、それからは絶対にここに毎年戻ってこようと誓ったのだった。
 以来、毎年欠かさず僕はフジに参加している。大学生の時はテスト期間と重なっていたから、夜行で大阪まで帰って来て大学の水道で頭を洗っていた。前夜祭で踊る苗場音頭は、確実に上達していると思う。いったい何本のライヴを観たことだろう。

 しかし慣れというのは恐ろしいもので、特にここ数年フジロックに大きな驚きを覚えなくなっている自分を発見しつつある。雨が降ってもそれに十分対応できる装備もあるし、ご飯は何が美味しいのか知っているからほとんど毎年同じメニューになってきている。体力の配分も掴んでいるし、テントを立てる場所も大体決まっていて、いつも利用している風呂屋の割引券まで持っている......。はじめの興奮があまりに大きかったために、なんだかもったいないことをしているような気がするのである。無理せず快適に、だらだらと......それでいいのか俺は? とふと思うときがある。18歳の僕がいまの僕のフジでのだらだらした過ごし方を見たならば、きっと文句を言うだろう。
 思うにこれは僕だけでなく、ここ数年のリピーターだらけの、そして年齢層が高めになりつつあるフジロック全体に言えることではないだろうか。オーディエンスのほとんどは野外フェスティヴァルでの過ごし方を熟知していて、無理なくそれぞれの楽しみ方をしている。その光景は気持ちのいいものだが、まったく個人的にはそろそろ新しい驚きがあっていいようにも思える。
 とはいえ、それは日本のフェス文化が成熟した証でもある。僕自身、フジぐらいでしか会えない知人や友人もずいぶん増えたから、彼らと会って酒を飲んだり近況を聞いたり音楽の話をしたりできるだけでも、充実した過ごし方をしていると言える。1年に3日間だけ出現する音楽好きの村のようなものだと思えばいいのだろう。子連れの姿がここ数年特に目立っているが、子どもたちが山で遊んでいるのを見ていると、あたかも親戚のようにその成長が楽しみになってくる。フジロックは日本では有数の、一種のコミュニティのようなフェスティヴァルだ。いまでは、それこそが最大の魅力だろう。

 今年も基本的にそんな感じだった。ざっと見る感じほとんどのオーディエンスは慣れた様子だったからリピーターだったろうし、雨と泥にもレインコートと長靴で難なく対応していた。初対面でも機会があれば話したりもするし、酔っ払いも多い。いい大人たちの開放的な姿、それは毎年変わることはない。
 ただし、今年は震災があってNGO団体からのメッセージは震災復興と脱原発が主であった。国内外問わずアーティストからのメッセージもあった。たくさんの人びとが集まる場でいまいちど我々が直面していることを共有するのは価値のあることだと思う。

 今年で9回目の参加となる僕は、輪をかけてだらだらしていた。いつもなら暑さのせいでテント生活では8時には嫌でも目が覚めるのだけど、天候が優れなかった今年は連日11時ぐらいまでは寝ていた。1日目深夜は一児の父の33歳の友人の「5時からシステム7を観ようぜ!」との誘いを無視して3時過ぎには寝たし、2日目深夜は「朝まで酔っ払って踊りたい」と言う同い年の友人をほったらかして寝た。33歳は泥だらけのオレンジコートで深夜に筋金入りのパーティ・ピープルときつい雨に打たれながら踊ったらしく、26歳は酔っ払ってその辺で寝潰れて救護のひとに思い切りビンタされて起こされたらしい。あー、僕よりフジを満喫しているなあー、と思ったが、まあ僕はテントでぐっすり寝て快適だった。
 彼らに比べれば僕は真面目に昼ごろからライヴを観ているほうなので、アクトについては書き出すとキリがないけれど、やはり印象に残ったものについては書いておきたい。

 初日は雨がしとしとと降り続けていたが、グリフ・リースの人柄が滲み出たサイケ・ロックの温かさとロン・セクスミスの深い歌声に嬉しくなって大して気にならなかった。それに、アークティック・モンキーズの堂々たる成長にも目を剥いた。たしか数年前に観たライヴではもっと照れがあったというか、アレックス・ターナーがもっと少年ぽかったはずだ。が、ずいぶん精悍にスターらしい佇まいになっていて、あの甘い声とドライヴィンなロックンロールを真正面から鳴らしていた。CSSの超元気なライヴを観てゲラゲラ笑った後には、ウォッシュト・アウトの大人気ぶりに驚かされた。5人編成のバンドのライヴは音源のフワフワ感よりも圧倒的にアグレッシヴでその分大いに盛り上がっていたが、どこか拙さを残したもので......やっぱり僕はそこが気になって乗り切れなかったが、チルウェイヴの日本での人気の高さは分かった。続くSBTRKTは丁寧にもマスクをつけて現れ、マッシヴなビートと複雑なエレクトロニクスをあくまで洗練された手つきで鳴らして、しかも生ドラムとサンファの生のヴォーカルでソウルフルにダイナミックにフロアを揺らしていて、こちらは僕も踊りまくったのだった。フォー・テットはこの前の単独のライヴの時よりもフロアライクだったように思うのだけれど、このとき僕は酔っ払った外国人グループに絡まれてぬるいビールを飲まされていたので記憶が曖昧である。友人と「良かったなー、良かった良かった」と言っていたのは覚えているのでたぶん良かったのだろう。XXのジェイミーのDJも途中まで観ていて「おーかっこいい」と思った気がするのだけれど......。

 2日目は昼過ぎまでぐだぐだしていたけど、ちゃんと観たバトルスは春に観たときよりもかなりまとまっていた。ドラムのジョンはセクシーだし。でもタイヨンダイがいない"アトラス"はちょうどひとり分パートが簡略化されていて、それはちょっと寂しかった。夏野菜カレーを食べながら観たトッド・ラングレンは相当良かった。マイクスタンドを持ってポーズを決めたり、謎の踊りを披露したりと機嫌良く、声もかなり出ていたし、何よりその洒脱で甘い歌はいまこそ再評価されているのも十分頷けるものだった。ラングレンを泣く泣く途中で切り上げて観た、マーク・リーボウと偽キューバ人たちの情熱的な演奏も素晴らしかった。そして泥を長靴で踏みしめて踊りまくったコンゴトロニクスvsロッカーズ、アフロ・ポップとロックがごちゃ混ぜになったそのパワフルさが最高だった......こういうのはまさにフジならではだ。祭には打楽器が一番だ。

 3日目はハンバーガーを食べながら観たトクマルシューゴのギターのテクニックとバンドのアンサンブルの掌握ぶりに感服するところからはじまった。そしてビーチ・ハウス、これが予想以上に素晴らしかった。正直、もっとぼんやりしたライヴを想像していたのだけれど、バンドの最大の魅力、すなわちヴィクトリアの中性的な声が魅力的に響くように音のバランスが熟慮されているように感じた。ヴィクトリアが髪を振り乱しながらあの甘いメロディを歌えば、もう完全にあの『ティーン・ドリーム』の世界だ。溶けた。モグワイの轟音にいつもながら歓声を上げ、ケイクの相変わらずの哀愁とエンターテイメントを楽しんだ。しかし僕にとって、今年は何と言ってもウィルコだった。カントリーが背負う歴史の重みに新しい音を切り拓こうとする実験を乗せ、ときにパワー・ポップやアーシーなロックまでを行き来する音楽性の幅。そしてジェフ・トゥウィーディーがややかすれた声で柔らかいメロディを歌う。グレン・コッチェの多彩な音を叩くドラム! "ジーザス、エトセトラ"のブリッジのオーディエンスの合唱は、昨年の単独公演のときよりも、より熱を感じるものだった。

  僕らの愛/僕らの愛/僕らにあるのはその愛だけ
  僕らの愛/神の財産はその愛だけ/誰もが燃え上がる太陽

 ああそうか......と僕は思った。フェスティヴァルはオーディエンスのもので、音楽はそこに集まった人びとでたしかにシェアされる。それは実際にそこに集まり、体験しなければ実感できないものだ。その美しい夜を感じるために、僕はやはり来年もあの場所に帰ることだろう。

木津 毅