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Príncipe Discos Label Showcase

Príncipe Discos Label Showcase

@Musicbox, Lisbon

2018年4月6日

山口詩織   May 15,2018 UP

「絶対にあの辺りを散歩しようなんて考えちゃいけないよ、あそこは郊外だから――」
 筆者がリスボンに住み始めた直後、滞在手続きに問題があり郊外の移民局まで出向かなければいけない、そう言ったときの友人たちの反応である。

 ポルトガルの首都リスボンは、世界治安の良い都市ランキングの上位にも入る、基本的には安全な都市だ。しかし、ときおり発砲騒ぎやドラッグ関連の事件も起こり、その舞台はたいてい郊外だ。若い、土地に不慣れな外国人が用もないのにひとりでふらつく場所でないのは明らかで、実際、それ以降郊外には行くこともなかった。

 〈Príncipe〉の音楽は、まさにその郊外から生まれた音楽だ。誰も訪れず、そこで何が起きているかなど誰も気に留めない。「街の人たちと違って、郊外で育った自分たちにはプロデューサーも完璧なスタジオも、音楽活動をするためのサポートもなかった」。最近〈Warp〉からEPを発表したレーベルの出世頭 DJ Nigga Fox もインタヴューで語っていたように、ポルトガルの場合、人種格差以上に地域格差が深刻である。「街の人たち」「郊外の自分たち」――彼が繰り返したこの対立構造は、クリエイターのみならず、社会全体の対立構造でもある。

 リスボンで開催されている音楽見本市、MIL(Lisbon International Music Network)。主にポルトガル音楽の海外向けプロモーションを目的とし、100組近いアーティストが出演したこのイベント最終日、メイン会場でのアフター・パーティを任されたのが、〈Príncipe〉であった。英国をはじめヨーロッパ諸外国から「発見」され逆輸入的にポルトガル国内でも認知されるに至った〈Príncipe〉が、ポルトガルの音楽を紹介する国際音楽ショウケースに出演するに至ったのは、彼らにしてみればいまさら感があるかもしれないが、感慨深いものがあった。

 一般客も入場可のパーティということもあり、金曜夜の会場は入場規制がかかるほどの混雑ぶり。パンフレットに「Príncipe All Star」とあった割に、会場にレーベル注目株DJたちの姿は見当たらない。関係者に訊ねると、今夜はほぼ DJ Marfox だという。一瞬「『オールスター』なのに、DJ Nigga Fox も、DJ Firmeza も DJ Lilocox もいないのか」とがっかりしたものの、レーベルの若手 Anderson Teixeira と Márcio に続き始まった Marfox のパフォーマンスは、さすが〈Príncipe〉の中心人物にふさわしい圧巻のパフォーマンスであった。

 レーベルの見習いか取り巻きと思わしき若いアフリカ系青年たちが熱い視線を向ける Marfox の手元からは、クドゥーロやフナナーを想起する乾いた変則ビートが繰り出される。〈Príncipe〉初のCDコンピレーション収録の“Swaramgami”や人気曲“2685-2686” “Eu Sei Quem Sou”のリズムが行き交い、数分置きに頭には「?!」マークが浮かぶ。惰性での踊りを許さない、奇妙な音楽的体験だ。

 辺りを見回すと、年齢も人種も国籍もバラバラのオーティエンスが、皆思い思いのダンスでこのビートを咀嚼している。
 しかし、これは「unite」ではない。街と郊外が融合する日なんて、永遠に来ないのだから。
 郊外で育ったアフリカ系移民が、郊外のベッドルームで作った音楽が、リスボンの街のど真ん中の有名クラブで鳴り響く。「街の人たち」が踊る。「郊外の人たち」が踊る。そんな対立構造など知りもしない外国人観光客が踊る。世界が踊る。それ以上に何が必要だろう?

 一日中ライヴ・ショウケースを巡って会場間を走り回り、身体はクタクタの朝5時。しかし、心は妙に清々しく晴れやかで、〈Príncipe〉がポルトガルの、世界のダンス・ミュージックの潮流を変えうる存在であることを、改めて実感する一晩となった。

山口詩織