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二木 信   Oct 04,2012 UP

VIKN Ft. BES,GUINNESS,A-THUG & NIPPS - "STARTING 5"
(Produced by HIROSHIMA&B-MONEY)



 負けを認めるからこそ踏み出すことのできる新しい一歩というものがある。新たなゲームを開始し、ルールを設定し直すために、負けを受け入れなければならないときもある。そもそも誰もが強く、逞しく、信念を曲げず、前向きにい続けられるわけではない。ときには迷い、嫉妬や憎しみを抱き、つまずき、辛酸をなめるときもある。負けているのにもかかわらず、負けていないと意地を張り続ける意固地な態度が道を見失わせることもある。やさぐれた人間のやさぐれた言葉は、ときとして、人の心の深いところに突き刺さったりする。と、そんなことをこのラップ・ミュージックを聴いた直後、僕は漠然と思った。

 トップバッターのBESの強烈な哀しみの歌が僕にそういう思考を促したのか、それともHIROSHIMA&B-MONEYの制作したバックトラックの泣きのストリングスに感情を揺さぶられたのだろうか。それだけではないと思う。5人とも同じ内容をラップしているわけではなく、むしろ5人それぞれが異なるベクトルに向かっているものの、5人のマイク・リレーはある一つのムードを作り上げている(例えば、"GOD BIRD"がそうであったように)。そのムードは言うなれば、いま、とくに東京近郊の街に漂う"負の兆し"みたいなもので、これほど見事に"負の兆し"を捉えたマイク・リレーを僕は久々に聴いた気がして、ゾクゾクしてしまったのだ。その兆しの正体はなんなのか、性急に言葉にしたくないし、できるものでもない。だから、この曲における、5人のラップと身振りは圧倒的にクールであるともいえる。

 ハードコア・ラップ、あるいはハスリング・ラップ、もしくはギャングスタ・ラップ。サブジャンルの呼び名はなんでもいい。SWANKY SWIPEのBESはサウス・ヒップホップ以降のオブ・ビート感覚とNYのラッパーの硬派なスタイルをミックスしたようなフロウで実体験に基づいた痛みと哀しみのストーリーを紡いでいく。それに続く、SEEDAとのビーフで話題を呼んだGUINNESSのより糸が絡み合っていくようなフロウは、こんがらがった内面そのものであるように感じられる。さらに、SCARSのリーダー、A-THUGは、「天国じゃないここはHELL/地獄の炎はメラメラ燃える」「ラップじゃなくても金を稼いでいる」というパンチライン、その間をつなぐ赤裸々なリリックで彼らの剥き出しの現実感覚を鼻先に突きつけ、NIPPSは自問自答と風格のある佇まいでブルースを滲ませる。そして最後に登場するTETRAD THE GANG OF FOURのVIKNが、この曲に、微かな、しかしたしかな光を当てている。

 「STARTING 5」は、ミュージック・ヴィデオの透き通る映像美も大きく影響しているのだろうが、北野武の撮るヤクザ映画に通じる叙情と哀愁、あるいは感傷に満ちている。それらは男のロマンやダンディズムから表出されるもので、その意味で彼らはヒップホップのマッチョイズムに忠実ともいえる。が、ここにある、どうしようもない乾きは、それだけではどうにも説明できない特別なものだ。

 最後になってしまったが、この曲はVIKNが10月発売予定のソロ・アルバム『CAPITAL』からの先行ミュージック・ヴィデオとなる。この曲は、この手のラップ・ミュージックのほんの入口かもしれない。CDが売り切れていなければ、BES『BES ILL LOUNGE:THE MIX』、A-THUG『HEAT CITY MIXED BY DJ SPACEKID』の2枚も合わせて聴くといいだろう。

二木 信