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Ten Years After

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木下 充 Jul 15,2010 UP

 ラッパーは自分を語りたがる、と人は言う。ECDのような、そのステレオタイプとはかけ離れた人でさえそうだ。たとえばECDの音楽史を綴った『いるべき場所』を読めば、彼の音楽人生が見えてくる。ゼロ年代というひとつのディケイドに関しても、アル中と鬱、メジャー離脱と自主制作スタート、サウンド・デモ......彼の人生にいろいろあったことを知ることができる。

 そうは言ってもECDは、ラッパーの自己顕示欲から遠く離れたところで自分を語っている。たとえばネットでの連載コラム「WE ARE ECD+1」や「ECDの休日」を読んで欲しい。結婚して、五十路で二児の父になった自身の私生活が赤裸々に綴られている、それはエンターテインメント性とは無縁で、語り口はいつも通り淡々としている。
 
 "10年後"と名付けられたECDの通算13作目となる新作もそうだ。いつものように社会への批評精神を持ちながら、彼は自分自身の生活について語っている。"Time Slip"、"M.I.B."、"Play The Game"、"And You Don't Stop"といった曲では以前の生き様について、その他の多くの曲では日常の機微について言葉を書きつらねている。
 同時にその視線は10年後の未来へも向いている。"Alone Again"では、「どんな気分のあと十年後/はっきりわかるわけがある/今とたいしてかわるわけじゃない」のだが、でも「軽くしたいとは考えないのは/放り出したらまたひとりだから」とラップする。いままで通りの諦観を滲ませながら、彼の正直な感情を吐露している。日常を決意をもって生きる、そして明日へと踏み出すその姿がいつになく力強い。アルバムはこう締めくくられる。「願いかなうなら少しでも長く/このでかいからだ故障などなく/このでかい頭縮むことなく/動いてほしい十年後も」
 今回のECDは、ちょっぴりドラマチックに見える。
 
 そして『テン・イヤーズ・アフター』は、4作目の『BIG YOUTH』(97年)以来の久しぶりのヒップホップらしいアルバムとも言える。
 『FINAL JUNKY』(04年)と『CRYSTAL VOYAGER』(06年)はエレクトロ・ファンクとアシッド・ハウスの定番機材を使いながら、それらの音楽からファンキーさを引っこ抜いて、この国の殺伐とした空気を反映した音だったが、新作のバックトラックにはサウス系ヒップホップからの影響が聴きとれる。
 リリックにもヒップホップ臭さはうかがえる。"Rest In Peace"や"Paid In Full"、(「Life Is Bitch」ならぬ「Money Is Bitch」の略で)"M.I.B"、"トニー・モンタナ"といった曲のリリックは、型にハマったヒップホップへの批評だろう。

 アルバムにはもうひとつ、ラッパーとしてのECDを強烈に印象づける場面がある。彼のラップの面白さだ。たとえば「~く(ク)」で踏みたおす"how's my rapping"や、「安 らか に 眠れ/たす から ね ておくれ」(最後は「寝ておくれ」と「手遅れ」をかけている)という"Rest In Peace"のサビなどは秀逸だ。キャリア25年にして、ヴェテラン・ラッパーのライムは鋭さを増している。

 いまはひとまず歌詞カードを置いて、この通算13作目『テン・イヤーズ・アフター』を、とにかく楽しみたい。

木下 充