ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Metamorphose ’23 ──Metamorphoseが11年ぶりの復活、レジェンドたちに混ざりGEZANや羊文学らも出演 (news)
  2. なのるなもない × YAMAAN ──ヒップホップとニューエイジ/アンビエントが交差する場所、注目のアルバムがリリース (news)
  3. PJ Harvey - I Inside The Old Year Dying (review)
  4. interview with Adrian Sherwood UKダブの巨匠にダブについて教えてもらう | エイドリアン・シャーウッド、インタヴュー (interviews)
  5. Tirzah - trip9love...? | ティルザ (review)
  6. AMBIENT KYOTO 2023 ──京都がアンビエントに包まれる秋。開幕までいよいよ1週間、各アーティストの展示作品の内容が判明 (news)
  7. Natalie Beridze - Of Which One Knows | ナタリー・ベリツェ (review)
  8. interview with Loraine James 路上と夢想を往復する、「穏やかな対決」という名のアルバム | ロレイン・ジェイムス、インタヴュー (interviews)
  9. interview with Cosey Fanni Tutti コージー、『アート セックス ミュージック』を語る (interviews)
  10. Oneohtrix Point Never ──ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、新作『Again』を携えての来日公演が決定 (news)
  11. Spellling - Spellling & the Mystery School | スペリング、クリスティア・カブラル (review)
  12. Caterina Barbieri - Myuthafoo | カテリーナ・バルビエリ (review)
  13. 国葬の日 - (review)
  14. Kazuhiko Masumura ——さすらいのドラマー、増村和彦の初のソロ・アルバムがbandcampにアップ (news)
  15. Fabiano do Nascimento ──ブラジル音楽とLAシーンをつなぐギタリスト、ファビアーノ・ド・ナシメントの来日公演 (news)
  16. Columns ジャパニーズ・ハウス・ライジング ──90年代初頭の忘れられた記憶 (columns)
  17. Lost New Wave 100% Vol.1 ——高木完が主催する日本のポスト・パンクのショーケース (news)
  18. Columns 9月のジャズ Jazz in September 2023 (columns)
  19. world’s end girlfriend ──7年ぶりの新作『Resistance & The Blessing』がついにリリース (news)
  20. talking about Aphex Twin エイフェックス・ツイン対談 vol.2 (interviews)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Best Coast- Crazy For You

Best Coast

Best Coast

Crazy For You

Mexican Summer / Hostess

Amazon iTunes

野田 努   Dec 22,2010 UP
E王

 半年くらい前のリリースをいまさら......ですが、インディ・キッズのためのベスト・コーストとウェイヴスによるクリスマス・ソング"ガット・サムシング・フォー・ユー"がいま話題ということで......。

 また、先日の三田格のLAヴァンパイアズのレヴューを呼んで、ベスト・コースで歌っている女性がポカホーンティッドのもうひとりのメンバー、ベサニ・コセンティーノだったということを知って本当に驚いた。それって、喩えるならボアダムスがサーフ・ロックをやるようなもの? ベスト・コーストも最近流行のザ・ドラムスモーニング・ベンダーみたいなレトロ趣味のバンドかと思っていた自分の浅はかさを反省して、ちゃんと聴いてみようかと思ったのだ。アマンダ・ブラウンがリーダーシップを取っていたのだろうけれど、それまでドロドロのサイケデリック/ダブ/ドローンをやっていた女性が"あなたに夢中"というタイトルの爽やかな50年代サーフ・ロックをやるのだから興味深い話ではある。
 だいたいこういうケースは、サーフ・ロックを演じているのだ。深いリヴァーブの効き方が怪しい。これはダビーなポカホーンティッドを思わせるものだし、不自然なほどキャッチーな曲調はこの音楽が単純明快な青春モノではないことを暗に匂わせている。ちなみに1曲目の"ボーイフレンド"はこんな歌詞だ。「彼が私のボーイフレンドだったら良かった/私は他の女の子と違っている/彼女は可愛いし、やせている/彼女は女子大生/なのに私ときたら17才でドロップアウト......」

 『ガーディアン』の記者はアメリカのインディ・ロックにおけるバンド名(ベスト・コース、ウェイヴス、ビーチ・ハウスなどなど)を「いつから地球は美しくなったのか」と皮肉っていたけれど、ここでベスト・コーストに関して言えば、それは表層的な解釈だった。彼女らのメロウな歌には複雑な虚無がある。一時的な性愛に振り回される"ジ・エンド"はこんな歌詞だ。「昨晩彼と出かけた/彼は素敵でキュート/だけど彼はあなたじゃない/私たちはただの友だちだと言うけれど、私はこれが欲しい/終わるまで」
 つまりベスト・コースの音楽は誰からも好かれるものだけれど、毒があるのだ。2010年の7月にリリースされたこれは、夏の虚無を実によく表しているとも言える。ちなみにこのレコードのアートワークをアメリカ人が見ると、水の上を歩いたというキリストの奇跡をパロディった"猫の奇跡"になるという。

 それでは最後に、ベスト・コーストとはまったく関係のない、僕の好きなクリスマス・ソングをみなさんにお送りするとしよう。

野田 努