Home > Reviews > Album Reviews > RSD- Go In A Good Way
10年以上昔のことだが、イギリス人にスミス&マイティとはなんぞやと訊いたら、彼は「ブリストルのハート(心臓であり心)だ」と教えてくれた。この簡潔な説明が、ロブ・スミスの立場をよく表している。彼はそう、ブリストルの真心とでも言えるのだろう。その真心を表象するのがレゲエだ。真心商売、ジャマイカン侍......金は取るけど良いものあるよ。
まあ、それはともかく、トリップ・ホップであれジャングルであれ、あるいはダブステップであれ、このベテランが関わるプロジェクトすべてに共通するのはレゲエだ。ロブ・スミスが定義するブリストルとは、ジャマイカのベースラインとドラミングに特徴づけらている。「ベースは母」というのが1995年のスミス&マイティの最初のアルバムのタイトルだった。
RSDは、ロブ・スミスのダブステップ・プロジェクトである。2009年には、地元ブリストルでペヴァリストが主宰する〈パンチ・ドランク〉から最初のアルバム『グッド・エナジー』を発表しているが、これは彼が2007年からの3年のあいだに同レーベルから発表してきたシングル集で、正確に言えばコンピレーション・アルバムだ。だから今回の『ゴー・イン・ア・グッド・ウェイ』が(既発の曲が2曲あるとはいえ)、ほぼ新曲で構成された初のオリジナル・アルバムと言える。しかもこれは大阪のベース・シーンの親分、クラナカが主宰するレーベル〈Zettai-Mu〉からのリリースだ。ふたりは1997年に初共演して以来の、14年の付き合いがあるそうだが、スミスの日本との強い結びつきを表すリリースでもある。
アルバムはいかにもロブ・スミスらしい、レゲエのダンスホールをダブステップ風にアレンジした"ダンスホール・ロック"からはじまる。MCを担当しているのはリッキー・ランキン(ルーツ・マヌーヴァの仲間)。2曲目の"アリーナ"でスミスは1970年代の後半のレヴォリューショナリーズへと接近する。オールド・ファンにとっては嬉しい流れだが、若いダブステッパーにとっても新鮮に感じるだろう。ダブステップの多くはUKガラージを背景にしているため、これほどスムースにレゲエへと展開するアルバムは珍しいのだ。
3曲目の"アクセプテッド"で、スミスはふたたびダブステップのサウンドシステムに戻る。そのままダークなベースを引っ張りながら、G.RINAのR&Bヴォーカルがフィーチャーされた"ユー・トゥ・ノー"へと続く。"ロング・ウィークエンド"で深いダブの瞑想へと突入すると、ダブステップのアクセントを取り入れたルーツ・ダブ・レゲエの"ジャー・ラヴ"、そしてステッパーズ風の"ダブ・キングダム"へと漂泊する......。
アルバムはレゲエ一辺倒というわけではない。ジンクのクラック・ハウスへの返答とでも言えばいいのか、アシッド・ハウスのベースラインを取り入れた"ケイヴガール"はユニークだし、タイトル曲の"ゴー・イン・ア・グッド・ウェイ"もラリー・ハードがダブをやったような、ハウス・ミュージックとの親和性を感じる曲だ。"アンシーン・スターズ"のようにポーティスヘッドのダーク・サウンドを彷彿させる曲もある。
それでも大雑把に言って、『ゴー・イン・ア・グッド・ウェイ』の最大の魅力は、70年代のジャマイカの音楽と2011年のダンスフロアとを結ぶトンネルを見つけていることだ。レゲエ・クラシックのサンプリングを使った"ジャー・イズ・マイ・ライト"のような曲は彼の趣味を端的に表しているし、資料によればブラストヘッドのヒカルは「俺的年間チャート1位を記録」だそうで、まあとにかく、ふだんレゲエに親しんでいる耳にはとても心地よく響く音であることは間違いない。ダンスフロアとももに発展した、UKダブの最新ヴァージョンとも言える。格好いいです。
(個人的にはリクルマイにも参加して欲しかったなー。メッセージということを考えるのであれば)
野田 努