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三田 格 Feb 06,2012 UP
ここ数年、USアンダーグラウンドがこぞってダンス・カルチャーへとベクトルを向け出したことは面白い現象だけれども、ジョン・エリオット(エメラルズ)のミストがジャーマン・トランスを模倣したり、ホワイト・レインボウがハード・ミニマルに吸い込まれていくのをボーッと見たいわけではなく、やはり、かつてのレイヴ・カルチャーからは出てこなかったフォームを聴かせてくれなければ興味を持つ意味はない。そういう意味では、何もフロアユースな作品でなくてもいいとは思うし、実際、これでもダンス・カルチャーのつもりなのかなという作品は少なくない。もしくは甞めてるとしか思えないものも多い。つーか、絶対に甞めている。セカンド・サマー・オブ・ラヴも最初はそうだった。
リーヌ・ヘルにドリップハウスやニンバイも加わった3人組として〈100%シルク〉からデビューしたキューティクルは、デビュー・アルバムのクレジットを見る限り、ニンバイのソロ・プロジェクトとして存続することにしたらしい。そして、これが、ダンス・カルチャーを甞めるにもほどがあるだろうというほど自由な発想を全開にし、聴くだけだったら面白い作品にはなっている。おそらくビートが入っていれば何をやってもいいと思っているのだろう。ハウスだと思って聴いていると、途中からウネウネと意味不明なシンセサイザーがとぐろを巻きだし、気がつくとビートもどこかに消え去っているし、ニュー・グルーヴ辺りの懐かしいイントロダクションだと思って聴いていると、そのように感じさせるシークエンスが何回かループされるだけで、それ以上、先へは進まなかったりする(ここでキックだろ、ここだ! とか思っているうちにあっさりと終わる)。ダブ・ベースもただ単に面白い音として扱っているようで、リズムが早すぎて踊りには不向き。表面的にはイジャット・ボーイズのデビュー時やPILのパロディに聴こえるものの、いっそのことビートを抜いてアンビエントとして聴きたくなってくる。頼りないヴォーカルもつい聴いてしまうし、最後なんかリズムの合っていない『E2-E4』にカール・クレイグが逆立ちしながらベースを足したような悪酔いモード。悪趣味を理解できるのは趣味のいい者だけだといいますけれど......。
もっとスゴいのがウルフ・アイズからネイト・ヤングらによる別プロジェクトで、なんとデトロイト・テクノを標榜しているにもかかわらず、そんな曲は1曲も収録されていない。これも上記と同じくダンス・カルチャーに名を借りた自由な発想の部類であり、途中でビートが消えてしまう展開も似たようなものだけれど、リズム感覚はそれなりによかったりするし、オルタナティヴ・ファンクとしての面目は保っている。発想も豊富で、ダンス・カルチャーを体験としてとらえているセンスもかつてのアシッド・ハウス・イクスペリエンスと共通の意義を見出せる。"ザ・クリエイション"と題された曲はこれだけがかなり混沌としたドローンだけれども、ウルフ・アイズの作風とは接点をなしているといえ、ダンス・カルチャーに乗り換えたわけではなく、応用が効くことを証明しようとしているかのようである。蟻の巣にゆっくりと引きずり込まれていくようなエンディングも実にいい。
また、ディスコやエレクトロをつくっていればダンス・カルチャーに突入できたと思っている現在のUSアンダーグラウンドで、デトロイト・テクノを意識する作り手が出てきたことは、それなりに興味深いことでもある。ダブステップやUKガラージのいくつかはあまりにもデトロイト・テクノの型にはまってしまったものも多いので、そういう意味では型破りなデトロイト・テクノを期待できるのはUSサイドではないかと思う面もあるからである。トリップ・ミュージックとしても新たな可能性は感じさせるし、何よりも自分たちでこれはデトロイト・テクノだと信じているところがいい。それは明らかにいままで誰も持っていなかった耳である。むしろ彼らがデトロイト・テクノを理解してしまう日が来ないことを祈りたい。
とはいえ、2作ともあまりにもジャケット・デザインがヒドい。なるほどアメリカというか......マエキン、なんとかして下さい!
三田 格