ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Columns ♯5:いまブルース・スプリングスティーンを聴く
  2. interview with Mount Kimbie ロック・バンドになったマウント・キンビーが踏み出す新たな一歩
  3. bar italia ──いまもっとも見ておきたいバンド、バー・イタリアが初めて日本にやってくる
  4. 『成功したオタク』 -
  5. Bingo Fury - Bats Feet For A Widow | ビンゴ・フューリー
  6. Jungle ──UKの人気エレクトロニック・ダンス・デュオ、ジャングルによる4枚目のアルバム
  7. 忌野清志郎 - Memphis
  8. interview with Young Fathers 日本はもっとヤング・ファーザーズを聴くべき  | アロイシャス・マサコイ
  9. Natalie Beridze - Of Which One Knows | ナタリー・ベリツェ
  10. tofubeats ──ハウスに振り切ったEP「NOBODY」がリリース
  11. Jlin - Akoma | ジェイリン
  12. Ben Frost - Scope Neglect | ベン・フロスト
  13. Mars89 ──自身のレーベル〈Nocturnal Technology〉を始動、最初のリリースはSeekersInternationalとのコラボ作
  14. Chip Wickham ──UKジャズ・シーンを支えるひとり、チップ・ウィッカムの日本独自企画盤が登場
  15. まだ名前のない、日本のポスト・クラウド・ラップの現在地 -
  16. Jeff Mills × Jun Togawa ──ジェフ・ミルズと戸川純によるコラボ曲がリリース
  17. Columns We are alive ――ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて
  18. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  19. interview with Chip Wickham いかにも英国的なモダン・ジャズの労作 | サックス/フルート奏者チップ・ウィッカム、インタヴュー
  20. Columns ♯2:誰がために音楽は鳴る

Home >  Reviews >  Album Reviews > Calexico- Algiers

Calexico

Calexico

Algiers

Anti-/Pヴァイン

Amazon iTunes

木津 毅   Dec 11,2012 UP

 コーマック・マッカーシーは2005年に発表した小説で、「老人が生きる国はない(原題『No Country for Old Men』、邦題『血と暴力の国』黒原敏行訳、扶桑社)」と言っていた。その舞台がアメリカとメキシコの国境だったせいか、キャレキシコの新作を聴いていて僕の脳裏をよぎるのは、その映画版『ノーカントリー』において「老人」であったトミー・リー・ジョーンズの額の皺である。コーエン兄弟のような優等生では原作の破壊的なエネルギーをじゅうぶんに出せているとは言いがたかったが、それでもハビエル・バルデムの魔物としての存在感と、ジョーンズの皺が映画に奥行きを作っていた。奇しくも同年の2007年公開だったポール・ハギス『告発のとき』にもジョーンズは出演していたが、そこで描かれていたのはアメリカの価値観の終わり、「さかさまの星条旗」が象徴するというアメリカからの救援信号であった。その頃から、アメリカの終焉ははっきりと目に見えていたということなのだろう。
 スプリングスティーンが「星条旗がどこに翻っていようとも」と歌った2012年、野田努に「ただのアメリカ好き」と言われるような僕にとって、アメリカの音楽はどこか終わりを伴うものとして響いた。星条旗はずいぶん前から、さかさまに掲げられていたのだ。ダーティ・プロジェクターズグリズリー・ベアのような優秀なアーティストは変わらず進歩的な作品を発表したが、かつてほど注目を集めているようには見えない。そんなときに聴くキャレキシコのしっとりとした哀愁は、抗いがたくしみて来る。田中宗一郎に「寂寥感」と言われようとも、三田格に「sense of lonliness」と訳されようとも......。

 拠点のアリゾナを離れてのニューオリンズ録音が話題になっている『アルジアーズ』だが、特別ニューオリンズという記号が浮上するわけでもない。何かが大きく変わっていることもない。彼らが丹念に紡いできたフォークやカントリー、マリアッチ、ポスト・ロックといった語彙は完全にシームレスなものになり、その多国籍な音楽性はより自然なものになっている。キャレキシコがこれまでずっとやって示してきた米国のルーツ・ミュージックへの深い理解と、非アメリカ音楽への興味とその丁寧な導入は、00年代のアメリカン・フォークの発展を思えば偉大な功績である。だがそれも、熟成したということなのだろう。かつてはアンドリュー・ウェザオールまで繋がり広がっていたことを思えば、この円熟は壮年期としてのそれである。ウィルコの最近作にしてもそうだったが、季節はゆっくりと秋の終わりを迎えているようなのである。"シナー・イン・ザ・シー"のエキゾチックで情熱的な演奏と歌、"フォーチュン・テラー"のただただそのふくよかさに嘆息するしかないフォーク、"メイビー・オン・マンデー"の抑えられながらも立ち上るエレキ・ギターの熱量、得意のラテン・ナンバー"プエルト"で聞かせる管楽器と弦楽器の絡み合いの官能、そのどれもが、純粋にそこに陶酔するものとしてある。そしてゆっくりとアルバムを満たしていく切なさと旅情。家の外から聞こえてくる選挙の演説の、「日本の再生」といった言葉がまったく響いてこない現在において、キャレキシコが奏でる旅への想像力、その温かさには救われる思いだ。
 ラスト2トラック、"ハッシュ(静けさ)"から"ザ・ヴァニッシング・マインド(消えてゆく精神)"へと至る、ひたすら美しい時間の流れに身を寄せていると、終わっていくものへの感傷が許される感覚がする。「きみの笑顔が僕を長い一日へと立ち戻らせる/思考が消えてゆく」。そして目を閉じれば、それが終わりゆくものだとしても、心はアメリカの南部の豊かな風景へと飛ぶ。国境へと走らせる車のなかに入ってくる、暖かな風。南へ、もっと南へ。キャレキシコの歌は変わらず、遠い国の音楽が運んでくるエモーションの豊潤さでもって、わたしたちを狭苦しい場所から連れ出そうとする。

木津 毅

RELATED

Calexico- The Thread That Keeps Us City Slang/Pヴァイン

Reviews Amazon iTunes

Calexico- Edge of the Sun Anti- / Pヴァイン

Reviews Amazon