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Frederic Robinson

Frederic Robinson

Mixed Signals

Blu Mar Ten

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野田努   Apr 25,2014 UP

 前回のレヴューで、ジャングルには、「音楽的にもまだ開拓する余地があり、横断的に、そしていろんなアプローチを取り入れることができるのだ」と書いた続き。
 遅ればせながら、僕は新世代ジャングルにハマっている。細かく断片化されて再構成されたパーカッシヴなブレイクビートの、言葉が舌に引っかかって出てこないようなまどろっこしさと、それとは相反して加速していくような滑らかさが同居しているという、ある種分裂的な感覚が実に気持ち良い。
 マンチェスターのアコードは、それをミニマル・テクノとうまい具合に調合する。

 さて、いま僕の隣にいる男が、アコードのふたりはシャックルトンからの影響が大きいとわめいている(彼は昨晩彼らと一杯やってきているのだ)。なるほど、たしかに、たしかにそうだ。それにしても、シャックルトンの影響がこういうかたちで表出するのか……。
 
 〈Houndstooth〉は昨年からファブリックがはじめたレーベルで、本作のリリースも2013年の冬、アルバムより半年ほど前に同レーベルから出している「Navigate EP」をいま聴くと──これまたごく個人的な興味の流れでリアルタムで追っている人には「何をいまさら」な話なのだが──リズムの組み方が新鮮に感じられる。
 シャックルトンのような、お化け屋敷で迷子になったような怖さはないが、フィリップ・K・ディックの描くまやかしの世界に迷い込んだかのようだ。風景が揺れているように感じるほど眩惑的で、ホアン・アトキンスともどこかで繋がっているのではと勘ぐらせる、マシナリーな、ロボティックなポスト・ダブステップ・ファンクといった風でもある。
 アコードのふたりは、いまちょうど来日中なので、興味のある方はぜひパーティに行ってみよう。東京公演は、日本人DJのラインナップも面白い。

 もう1枚、昨年のリリースで「何をいまさら」だが、とくに良いと思ったのはフレデリック・ロビンソンのデビュー・アルバムの『Mixed Signals 』。

 90年代にもジャングルはフュージョン/ブラジル音楽との接続を果たしたものだが、それはレイヴ・カルチャーが共同体に疲れて、なかばうんざりした時期におきた、離反と成熟から生まれたものだった。要は、それ相応の手続きと時間を要したのだが、この21歳のドイツ人青年は、そうした、いかにもシーンで揉まれてきたかのような汗や手垢の一切を感じさせないクリーンさで、しかし似たようなことをやっている。ロマンティックな美しいメロディと、こと細かく編集されたブレイクビートのドリルンベースで魅了したエイフェックス・ツインをフュージョンの側に寄せた感じだとでも言えばいいのか。しかもこの青年はひとりで、さまざまな楽器──鍵盤のみならずバイオリンまで──の演奏をこなしている。なんてクールなヤツだろう。

 ダンス・カルチャーには、フィリップ・K・ディックが『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』で描いたように、そこが楽園だと信じてあれこれ貪ったあげくに世にもおそろい目に遭うという側面がある。ゆえに……と言っていいのだろうか、ダンス・ミュージックには、おそらく直感的に、そこを楽園だとは思わせないような、ダークネスを敢えて描くところがある。
 アントールドやミリー&アンドレアの、暗い衝動を秘めたアルバムを聴き入ったあとでは、憎たらしいほどキラキラしていて、屈託のなさが気になるというか、気持ち良すぎて気持ち悪いのだが、耳に優しいのはフレデリック・ロビンソンだ。叙情に耽ることなく、清々しいまでに前進している。ああ、若いって良いナー。家聴きには最高のアルバムだし、僕は、初期のDJサッセや一時期のスヴェックのような、北欧系の、透明度の高いクラブ・サウンドを思い出す。
 本作は、下北沢のZEROに行けばまだ在庫があるかもしれないので、この音にピンと来た人は早めに駆けつけたほうが良いです。

野田努