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Shackleton

Shackleton

Music For The Quiet Hour / The Drawbar Organ EPs

Woe To The Septic Heart!

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三田 格   Jun 15,2012 UP
E王

 ダブステップが浮上してきたゼロ年代中盤、僕はどちらかというとグライムの方に興味があったので、エル-Bやディジタル・ミステックスといった人たちに大きな関心は持っていなかった。〈リフレックス〉からリリースされた2枚のコンピレイションや〈ソウル・ジャズ〉から出たシングルを何枚か買ってみたぐらいで、ベリアルのデビュー・アルバムも最初は試聴のみにとどまった。例外はピンチのデビュー・シングル「カバーリ」(06)で、この曲だけが一時期、僕とダブステップを結びつけていた。その圧倒的なポテンシャルは、昨年、リリースされたラマダンマンのミックスCDにいまさらのように収録されていたことでも明らかだろう(ちょっとBPMが早すぎたけど)。

「カバーリ」は、ひと言でいえば、ダブステップにトライバルなリズムを薄く忍ばせたもので、これが意外とフォロワーを産んでいない。この6年間でもブロークン・コンパス「オーストレイリア」、クッシュ・アローラ「ボイリング・オーヴァー」、エンヴィー「グリッチ・ダブ」、ファーカス「ミート・ザ・ファーカス」......ぐらいで、それらもとくに出来がいいシングルばかりとは行かない(もしかするとスウィッチによるビヨークのリミックスもそれらしく聴こえたかもしれない)。なによりもピンチが路線を変えてしまい、彼からすみれば自分なりの興味に従っていたのだろうけれど、僕からすればどんどんあさっての方向に行ってしまう感じでしかなかった。

 この間隙を埋め続けたのがシャクルトンだった。最初の頃はそれこそ「薄く忍ばせる」だけで、トライバル・リズムが前景化することはなかった。それどころか無機質な感触を強調したかったのか、ファースト・アルバムはミニマル・テクノの〈パーロン〉からリリースするなど、これもまた少なくとも僕の興味とは逆の方向にあるものとしか思えなかった(そもそもダブステップのファン層は必要以上にテクノやハウスをバカにしていた)。おかげで「デス・イズ・ノット・ファイナル」のようなシングルはすべて聴き逃してしまった。これが〈ファブリック〉からのミックスCDで根こそぎ覆る。野田努も書いているように前半だけでも充分なのに、直前にリリースされた8thシングル「マン・オン・ア・ストリング パート1&2」など後半に並んでいる曲は異様なほどヒプノティックで、油断していると思いも寄らなかったところまで連れ去られる。同シリーズのヴィラロボスよろしく自作の曲だけで構成されているので、ファーストから3曲の採録がなければ実質的なセカンド・アルバムといっていいほどスキル・アップしたヴァージョンであることは間違いなかった。〈パーロン〉を経由したこともムダではなかった。ヴィラロボスに限らず、ミニマル・テクノがその当時、ワールド・ミュージックから吸収しようとしていたことをダブステップに応用したことは明らかだからである。

 翌年、シャクルトンはピンチとのジョイント・アルバムをリリースする。ピンチに興味が持てなくなっていた僕は(デザインのせいもあって)最初はスルーを決め込んだものの、「年末ベストに間に合わなかったことを後悔している」という野田努のヘンな言葉使いに刺激されて、やはり聴いてみることにした。トライバル・リズムは、しかし、ここでは野田努の強調する怪奇趣味に押されて「薄く忍ばせる」程度に戻っている。"カバーリ"にもアトモスフェリックな効果は充分にあり、これを拡大したものになっているといえばいいだろうか。ハットとパーカッションにストリングスだけで表情をつけていく"ルームス・ウイズイン・ア・ルームス"からアブストラクな展開にもつれこむ"セルフィッシュ・グリーディ・ライフ"など、セイバーズ・オブ・パラダイスや最近ではザ・ケアーテイカーに至るイギリスのホラー趣味をダブステップの文脈で受け継ぐものであることは、なるほど間違いがない。"バーニング・ブラッド"のように変な状況下ではヘタに聴きたくない曲がここには最後まで渦巻いている。

 しかし、シャクルトンに関してはトライバル・リズムをダブステップにどう応用するかという探求が、僕にとってはメインである。「マン・オン・ア・ストリング パート1&2」やファブリックのミックスCDは次を期待させるに充分であったし、ジェイムス・ブレイクやゾンビーよりもDRCミュージックに触発されるものがあるのは、やはりダブステップが何よりもリズムを楽しむための音楽だと思いたいからである。そして、(時にはそういうこともあるものだというか)シャクルトンのセカンド・アルバムはジャングルのなかに分け入っていくようなトライバル・リズムの宝庫と化していたのである! しかも『ミュージック・フォー・ザ・クワイエット・アワー』と題されたまったくの新作と、同時にリリースされた3枚のEPを1枚にまとめた2CDセットという体裁で!

 『ミュージック・フォー・ザ・クワイエット・アワー』というタイトルはブライアン・イーノを想起させるけれど、なるほどイーノ&クラスターやクラウトロックにありがちなシンセサイザーの響きが縦横に飛び交い、それをヴィラロボス式のトライバル・リズムがしっかりと下から支え続けていく。いわば、新旧のドイツ音楽がダブステップというフィールドで無理やり結び付けられてしまったようなもので、"カバーリ"でも使われていた民俗楽器や飛行機のドップラー音が奇妙な抽象空間を織り成す"パート3"はザ・KLF『チル・アウト』にも匹敵するような未知のトリップ・ミュージックへと発展し、"パート4"にたどり着く頃にはリズムも消えてしまう。どこか非常に美しい世界。自分はそこに足を踏み入れている。ピンチとのジョイント・アルバムでは、それはダークな姿をしていたけれど、ここにあるのは「ホコリと光のすごいごちそう」。だんだん重力から遠ざかっていく。気絶してしまいそうだ。いつまで経ってもここにいて、永遠に"パート5"にはたどり着けないような気がしてきた。ベドウィン・アセントとの共作なのに、指の間から取りこぼしてしまいそうだ。話しかけないで欲しい。さっきから同じ言葉を何度も打ち間違えている。もう、なにがなんだかわからなくなってきた...... もう、文章を書くのが面倒くさい...... ああ......

三田 格