Home > Reviews > Album Reviews > The Soft Pink Truth- Why Do The Heathen Rage?
良識的なひとびとがマチズモを男根主義と呼んで眉をひそめるならば、ドリュー・ダニエルは「僕たちも男根が大好きだよ!」と不気味に笑って「彼ら」に握手を求めてみせるだろう。マトモスの片割れであるダニエルのプロジェクト、ザ・ソフト・ピンク・トゥルースの久しぶりの新作では……ああ、ジャケットを見て逃げ出さないでほしい、(ゲイの、ではなく)ホモの地獄絵図が広がっている。これはダニエルによる極めて冷静な批評であり、強烈な一撃である。差別主義者への? まあ、それもある程度。しかしそれ以上に、ポリティカル・コレクトネスに捕らわれて退屈になったゲイ・カルチャーおよび、リベラルなつもりで世のなかの醜い部分から目を背けようとする一見清潔な連中を徹底的にからかっている。
今回のコンセプトはシンプルだ。ブラック・メタルのアンダーグラウンド・クラシック・ナンバーのエレクトロニック・ミュージックによるカヴァー集……と、それだけ書けば何てこともないが、ここで繰り広げられるのは反キリスト教、サドマゾ、悪魔信仰、女性蔑視、そしてもちろんホモフォビア……のエレクトロニカ・ヴァージョンであり、その、断絶された世界のあり得ない接続である。ワイ・オークのジェン・ワズナーがヴォーカルをとる“レディ・トゥ・ファック”を聴いてみるといい。マシュー・ハーバートのリスナーもうっとりするようなエレガントでスムース、そしてフェミニンなそのハウス・トラックでの決め台詞は、「立ちあがって俺の突き刺さったハンマーを見ろよ」だ。ボディ・ミュージックめいた“ビーホールディング・ザ・スローン・オブ・マイト”、ダークで艶っぽいグリッチ・ハウス“レット・ゼア・ビー・エボラ・フロスト”、キッチュなシンセ・ポップ“ブリード・バイ・タイム・アンド・ダスト”、ドラムンベース調のカオティックな暴走“マニアック”……吐き気がするほど禍々しく不道徳であり、だが強烈にセクシーで、その分裂に聴けば聴くほど脳がシェイクされるようだ。
ひとつ確実に言えるのは、このアルバムはブラック・メタルのエクストリームさを対象化して風刺しながらもその内部に入り込んでエナジーを吸収しているということだ。背徳的なメタルの世界を指さして批判しているのではなく、その地獄で血糊を浴びて笑ってみせている。この世に蔓延る差別が反社会的で非常識な黒づくめの連中のせいならことは簡単だが、そうではない。だからダニエルはこのアルバムのオープニングを、アントニー・ハガティといっしょに朗読するゲイ・アンダーグラウンド・シーンのプロテスト・ポエットではじめる(“インヴォケイション・フォー・ストレンス”)。ここにあるのは多くの人間が見ようとしないこの世の暗部の饗宴だとそこで宣言するかのようで、戯画化された地獄は本当に存在するのだといやでも思い知らされる。
だが結局のところ、これはすさまじく悪辣かつ狂ったジョークだ。TMTがレヴューの「スタイル」を「エレクトロニカとハウスにおけるホモフォビアの悪夢」としているのには笑ったが、いやしかし実際、笑うしかない。ホモフォビアは悪夢のようだが現実に存在するのだから。ドリュー・ダニエルはアウトサイダーとしての共感の眼差しすらをブラック・メタルに向けつつ、不健全な文化と性に満ち溢れたパーティを今日も繰り広げている。
木津毅