Home > Reviews > Album Reviews > Genesis Hull- Who Feels It, Know It
どうやら調子に乗って遊びすぎたら3度めのギックリ腰をやってしまったようだ。貧乏がたたって機材をだいぶ売り払ってしまったので演奏に持ち出す量は減ったものの、やはり重いモノを持ち運ぶ動作は肉体に蓄積してゆく。でもやっぱPCでライヴは嫌だからね〜などと言う人もいるが、自分は微塵もそうは思ってはおらず、むしろ超高価で巨大な機材を用いてクソのようなライヴをおこなう連中いるし、ゴミのような機材で最高のライヴをおこなう連中もいる。PCでの素晴らしいライヴもあり、またその逆もあるのだ。自分のPCのHDはつねにポルノでフルであり、DAWソフト等を開くことすら不可能であるだけである。
俺の理想はバックパックでメキシコまでバイクでツアーだぜ! と語るアレックス・グレーが羨ましい。PCと安物のMIDIコンだけでここまで狂ったサウンドを演奏するグレーのライヴは最高に身軽である。しかし、“軽やかさ”はグレーにとってとても重要なように思える。
ドリーム・カラー(Dream Colour)、ディープ・マジック(Deep Magic)、ヒート・ウェーヴ(Heat Wave)とさまざまな名義で出没し、LAアンダーグラウンドのボーダーを曖昧にしながらサン・アロー(Sun Araw)でキャメロン・スタローンをサポートするグレーの活動は、元気いっぱいだけど飽きっぽい子どものようでもあるし、それぞれで非常にドープなサウンドを奏でながらもその響きに悲壮感はいっさいなく、まるでさまざまなモノを摂取して強引に増幅させたような多幸感に満ちている。イケメンなどで女の子にもモテるので、見た目の雰囲気もかなり軽い。
ダブルLP、マルチプライ(Multiply)をリリースしたばかりのキャメロン・スタローンとゲド・ゲングラス、アレックス・グレーにアーロン・コイエ(ピーキング・ライツ)、マシューデイヴィッドにブッチー・フーゴによるダブ・プロダクションであるダピー・ガンから、アレックスのD/P/Iの変名(もういい加減にしてくれ……)、ジェネシス・ハル(Genesis Hull)によるタガの外れたクッソドープなミックスが届いた。
D/P/Iのサウンドが持つとっつきにくいグルーヴはわれわれを簡単に踊らせてはくれないにもかかわらずダンス衝動を感じずにはいられない。日常におけるくだらない瞬間をコンクレートしながら、ジャングル以降の極端なエディットでもって透き通るような混沌──という矛盾サウンド──を創り上げるグレーのD/P/Iによるこのミックスは、彼のブレイクを確実に後押しするだろう。これがメガ・ハイってやつだな。アレックス・グレー、ついにお前の時代が来たようだな。
倉本諒