ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Pulp - More | パルプ
  2. サンキュー またおれでいられることに──スライ・ストーン自叙伝
  3. Ellen Arkbro - Nightclouds | エレン・アークブロ
  4. フォーク・ミュージック──ボブ・ディラン、七つの歌でたどるバイオグラフィー
  5. Derrick May ——デリック・メイが急遽来日
  6. Susumu Yokota ——横田進の没後10年を節目に、超豪華なボックスセットが発売
  7. Cosey Fanni Tutti - 2t2 | コージー・ファニ・トゥッティ
  8. Theo Parrish ──セオ・パリッシュ、9月に東京公演が決定
  9. interview with Rafael Toral いま、美しさを取り戻すとき | ラファエル・トラル、来日直前インタヴュー
  10. Adrian Sherwood ──エイドリアン・シャーウッド13年ぶりのアルバムがリリース、11月にはDUB SESSIONSの開催も決定、マッド・プロフェッサーとデニス・ボーヴェルが来日
  11. 〈BEAUTIFUL MACHINE RESURGENCE 2025〉 ——ノイズとレイヴ・カルチャーとの融合、韓国からHeejin Jangも参加の注目イベント
  12. Autechre ──オウテカの来日公演が決定、2026年2月に東京と大阪にて
  13. Terri Lyne Carrington And Christie Dashiell - We Insist 2025! | テリ・リン・キャリントン
  14. Little Simz - Lotus | リトル・シムズ
  15. VMO a.k.a Violent Magic Orchestra ──ブラック・メタル、ガバ、ノイズが融合する8年ぶりのアルバム、リリース・ライヴも決定
  16. R.I.P. Tadashi Yabe 追悼:矢部直
  17. Ethel Cain - Perverts | エセル・ケイン
  18. Hazel English - @新代田Fever
  19. MOODYMANN JAPAN TOUR 2025 ——ムーディーマン、久しぶりの来日ツアー、大阪公演はまだチケットあり
  20. R.I.P.:Sly Stone 追悼:スライ・ストーン

Home >  Reviews >  Album Reviews > Dean Blunt- Black Metal

Dean Blunt

DubExperimentalFolkIndie RockTechno

Dean Blunt

Black Metal

Rough Trade/ホステス

Amazon iTunes

野田努   Jan 07,2015 UP

 年末年始は、妻子が実家へとさっさと帰るので、ひとりでいる時間が多く持てることが嬉しい。本当は、ひとりでいる時間を幸せに感じるなんてこと自体が幸せで贅沢なことなのだろう。そんなことを思ってはいけないのかもしれないが、年末年始、僕は刹那的なその幸せを満喫したいと思って、実際にそうした。
 たいしたことをするわけではない。ひたすら、自分が好きなレコードやCDを聴いているだけ。聴き忘れていた音楽を聴いたり、妻子がいたら聴かないような音楽を楽しんだり、しばらく聴いていなかった音楽を久しぶりに聴くと自分がどう感じるのかを試したり。もちろん片手にはビール。お腹がすいたら料理したり。たまにベランダに出たり。たまに読書をしたり。たまにネットを見たり。寝る時間も惜しんでひとりの時間を満喫した。
 そんな風に、ひたすら音楽を聴いているなかで、僕はディーン・ブランドの新作を気に入ってしまった。
 最初に聴いたときは、このところの彼のソロ作品の「歌モノ」路線だなぁぐらいにしか思わなかったのだけれど、家の再生装置のスピーカーでしっかり聴いていると、正直な話、この作品を年間ベストに入れなかったことを悔やむほど良いと思った。僕には、ハイプ・ウィリアムス時代の衝撃が邪魔したとしか言いようがない。

 たしかに、『ブラック・メタル』という(北欧のカルト的ジャンルとは無関係。むしろ人種的ジョークさえ含むかのような、深読みのできる)作品タイトルも、真っ黒なスリーヴケースも、そして、意味ありげで意味がない曲名も、ディーン・ブランドの調子外れの歌も、まあ面白いのだが、ハイプ・ウィリアムス時代から聴いているリスナーにとっては相変わらずといえば相変わらずで、「ああー、いつものディーン・ブランドだなー」で済んでしまう話だ。実際、僕もそう済ませていたきらいがある。

 ところが、年末年始のひとりの時間のなかで『ブラック・メタル』をじっくり聴いたときには、何か特別な作品に思えた。家にある、いろいろなジャンルの音楽を聴いているなかで再生したのが良かったのだろう。松山晋也さんが『ミュージック・マガジン』でこの作品を個人のベスト・ワンにしていた理由も、僕なりに納得できた。これは……言うなれば、セルジュ・ゲンズブールなのだ。もしくは、(他から盗用した)おおよそ全体にわたるギター・サウンドの暗い透明感からしてドゥルッティ・コラム的とも言える。


 
 これだけ世の中でEDMが流行れば、その対岸にある文化も顕在化するはずだ。ヒューマン・リーグがヒットした反対側ではネオアコが生まれ、ユーロビートが売れた時代にマンチェスター・ブームがあったように。
 ディーン・ブランドがこのアルバムの前半で、ギター・サウンドにこだわり、パステルズをサンプリングしていることも、そうした時代の風向きとあながち無関係ではないだろう。夕焼けを見ながら『ブラック・メタル』を聴いていると、えも言われぬ哀愁を感じる。ディーン・ブランドのくたびれた歌声と女声ヴォーカルとの掛け合いは、僕のブルーな気持ちをずいぶん和らげてくれる。ハイプ・ウィリアムスという先入観なしで聴くべきだった。
 とはいえ、ムーディーなまま終わるわけではない。『ブラック・メタル』は後半からじょじょに姿を変えていく。ダブがあり、ノイジーなビートがあり、最後のほうには最高のテクノ・ダンストラックも収録されている。


野田努