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ジェイムス・ブレイクはファースト・アルバム、続いて『オーヴァーグロウン』を発表する中、それ以前のシングル群で見せていたダブステップの世界から、シンガー・ソングライターとしての色合いを深めていった。ジェイミー・ウーンも同じような立ち位置のアーティストで、ともに親がロックやフォーク畑のミュージシャンという共通点もある。ジェイムス・ブレイクがキーボードを弾いて歌うのに対し、ジェイミー・ウーンはギターの弾き語りだ。もともとソウル系のシンガー・ソングライターを出発点とするジェイミーだが、ブリアルやラマダンマンらダブステップの人脈から、母親の出身地であるスコットランドのハドソン・モホークとも交流を持ち、彼らをリミキサーに迎えている。2011年にリリースされたファースト・アルバム『ミラーライティング』は、ブリアルや母親のメイ・マッケンナなどを交えて制作され、シンガー・ソングライターとしての側面とポスト・ダブステップ的なサウンド・プロダクションが結び付き、ジェイムス・ブレイクやサブトラクトのファーストと並んでこの年を代表する傑作だった。それからかなり間隔が空いてのセカンド・アルバムが『メーキング・タイム』だ。
今回はリリース元がディスクロージャーやジェシー・ウェアなどをリリースする〈PMR〉なので、『メーキング・タイム』よりさらにダンス色、ポップ色が強まり、ややもすればジェイミーの持味が薄れてしまうのではとも懸念したが、そうした心配は必要なかった。むしろ前作でのブリアルのサウンド・プロダクションがなくなったぶん、ジェイミーのシンガー・ソングライター面によりスポットが当たっている。彼の歌とソング・ライティングだが、“メッセージ”“ムーヴメント”“デディケーション”などに顕著なように、マーヴィン・ゲイやリオン・ウェア・マナーとでも言うべきソウルフルなテイストが増している。“シャープネス”はミルトン・ライトとかティミー・トーマスあたりのマイアミ・ソウルを彷彿とさせる。“セレブレーション”はゲスト参加のウィリー・メイソンによるしわがれた歌をフィーチャーし、カントリー調の味わいを持つ作品に仕上がっている。“スキン”での自身のコーラスの多重録音はドゥーワップを基とするものだろう。
ジェイミーはディアンジェロやアッシャーなど1990年代のR&Bが好きで音楽をはじめたので、そのルーツにあるこうした1960年代から70年代にかけてのアメリカのソウルへと向かうのは理解ができる。でも、アメリカの黒人文化の象徴であるソウルとはちがう肌触りもあり、あくまで抑制のきいた歌や演奏が、ジェイムス・ブレイク同様にイギリスのシンガー・ソングライターたるゆえんではないだろうか。そうしたUKらしさは内省的な“ラメント”やフォーキーな“フォーギヴン”“リトル・ワンダー”に表れており、ニック・ドレイクやジョン・マーティンから、ルイス・テイラーなどUKのシンガー・ソングライターの系譜を思い浮かべさせる。“サンダー”のようにポップさを持ちながら、どこか屈折した味わいも英国ならではだ。
小川充