ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Nídia & Valentina - Estradas | ニディア&ヴァレンティーナ
  2. ゲーム音楽はどこから来たのか――ゲームサウンドの歴史と構造
  3. interview with Conner Youngblood 心地いいスペースがあることは間違いなく重要です | コナー・ヤングブラッドが語る新作の背景
  4. Damon & Naomi with Kurihara ──デーモン&ナオミが7年ぶりに来日
  5. interview with Sonoko Inoue ブルーグラスであれば何でも好き  | 井上園子、デビュー・アルバムを語る
  6. Loren Connors & David Grubbs - Evening Air | ローレン・コナーズ、デイヴィッド・グラブス
  7. Black Midi ──ブラック・ミディが解散、もしくは無期限の活動休止
  8. R.I.P. Tadashi Yabe 追悼:矢部直
  9. Columns Nala Sinephro ナラ・シネフロの奏でるジャズはアンビエントとしての魅力も放っている
  10. Jan Urila Sas ——広島の〈Stereo Records〉がまたしても野心作「Utauhone」をリリース
  11. Nídia - Nídia É Má, Nídia É Fudida  / Elza Soares - End Of The World Remixes
  12. Wunderhorse - Midas | ワンダーホース
  13. Aphex Twin ──30周年を迎えた『Selected Ambient Works Volume II』の新装版が登場
  14. Mark Fisher ——いちどは無効化された夢の力を取り戻すために。マーク・フィッシャー『K-PUNK』全三巻刊行のお知らせ
  15. Overmono ──オーヴァーモノによる単独来日公演、東京と大阪で開催
  16. Holy Tongue - Deliverance And Spiritual Warfare | ホーリー・タン
  17. interview with Tycho 健康のためのインディ・ダンス | ──ティコ、4年ぶりの新作を語る
  18. Godspeed You! Black Emperor ——ゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーがついに新作発表
  19. Sam Kidel - Silicon Ear  | サム・キデル
  20. MODE AT LIQUIDROOM - Still House Plantsgoat

Home >  Reviews >  Album Reviews > London Grammar- Truth Is A Beautiful Thing

London Grammar

Indie PopMelancholic

London Grammar

Truth Is A Beautiful Thing

Metal & Dust

Tower HMV Amazon iTunes

小川充   Jun 28,2017 UP

 前回のレヴューで取り上げたムーンチャイルドは、女性シンガー1名、男性ミュージシャン2名という組み合わせだった。昔からこの編成のトリオは多く、UKでもワーキング・ウィーク、ヤング・ディサイプルズ、ポーティスヘッドなど、その時代時代でエポック・メイキングな活躍をしたアーティストにはこのパターンが多い。ハンナ・リード(ヴォーカル)、ダン・ロスマン(ギター)、ドット・メジャー(ドラムス)によるロンドン・グラマーも同じ3人組だ。グループ名どおりハンナとダンはロンドン生まれで、グラマー・スクールへ通っていたが、その後ノッティンガム大学に進学して、そこでドットと出会ってグループを結成したのが2010年。卒業後は2011年にロンドンへ出てきて、2012年末にYouTubeへアップした“ヘイ・ナウ”で一躍注目を集める。そして、“ウェスティング・マイ・ヤング・イヤーズ”、“ストロング”といったシングル曲が軒並みヒットする中、ディスクロージャーの楽曲“セトゥル”への参加を経て、2013年にファースト・アルバム『イフ・ユー・ウェイト』を発表。〈ミニストリー・オブ・サウンド〉傘下に自身の版権レーベルとして〈メタル&ダスト〉を立ち上げ、そこからリリースされた『イフ・ユー・ウェイト』は、『ガーディアン』、『NME』、『ピッチフォーク』など音楽誌やメディアでも高い評価を集め、UKアルバム・チャートでも初登場で第2位を獲得した。最終的に2014年度のトップ5のセールスを記録したこのアルバムは、UKのイヴォール・ノヴェロ・アワードなどの音楽賞を受賞している。

 女性シンガーを含む男女3人組の場合、その女性シンガーの歌声がグループの看板となることが多いのだが、ロンドン・グラマーの場合も同様にハンナの歌が売りで、彼女はアデルなどに続く逸材と目されている。英国のメディアが彼女のことを、フローレンス・ウェルチ(フローレンス・アンド・ザ・マシーン)、アニー・レノックス(ユーリズミックス)、ジュリー・クルーズなどと比較しているが、その憂いを帯びた美しくも力強い歌声は、R&Bシンガーやロック、またはポップ・シンガー的というより、どちらかと言えば英国のトラッドやフォークの系譜を受け継ぐ雰囲気を持っており、そうした意味でとても英国らしいシンガーである。そのハンナの歌を、ダンの哀愁に満ちたギター・サウンドがサポートするというのがロンドン・グラマーの音楽の核で、ドットのドラムはミドル~ダウンテンポ系のどっしりとしたビートを刻む。さらに重厚なピアノやストリングス、ブラス・サウンドが彩っており、アコースティックでフォーキーな質感の中にエレクトロニックな要素も忍ばせ、宇宙的とでも言うような広がりを感じさせるその音は、ゼロ7あたりを彷彿とさせるかもしれない。曲によってはダブステップやオルタナティヴR&B的なものもあるが、本質的には歴代の英国ロックの伝統に連なるダークでメランコリックな世界観を持つグループと言えるだろう。

 『イフ・ユー・ウェイト』から4年ぶりとなる新作『トゥルース・イズ・ア・ビューティフル・シング』も、基本は前作の路線を引き継ぐ作品集となっている。プロデューサーには、共にアデルを手掛けたポール・エプワースとグレッグ・カースティンのほか、ジョン・ホプキンスらが迎えられている。先行シングル“ルーティング・フォー・ユー”、続くシングル第2弾“ビッグ・ピクチャー”と、アルバム冒頭は美しいバラード系ナンバーにスポットが当てられている。第3弾シングルの表題曲も含め、これら静的で繊細なイメージの楽曲でのハンナの澄んだ歌声は本当に素晴らしい。一方、“ディファレント・ブリーズ”や“ノン・ビリーヴァー”といった比較的ビート感の強いナンバーにおいても、まずは彼女の歌の魅力をいかに引き出すかが、前作同様にアルバムの重点である。“ワイルド・アイド”や“ヘル・トゥ・ザ・ライアーズ”は、ややダブステップ的な味わいを持つ作品となっており、サブモーション・オーケストラあたりに通じるだろうか。ロンドン・グラマーの持ち味には、アコースティックな要素とエレクトリックな要素の調和もあり、それが発揮された好例だろう。また、サブモーション・オーケストラとの共通点では、教会音楽からの影響も挙げられる。まさに「チャーチ・ミックス」と題された“メイ・ザ・ベスト”、BBCのメイダ・ヴァレ・スタジオでのライヴ録音となる“ビター・スウィート・シンフォニー”に、それが見て取れる。そして、第4弾シングルの“オー・ウーマン・オー・マン”は、ゴスペル・ロック的な世界観とフォーキーなテイストが見事に結実した、アルバムのハイライト的なナンバー。反戦ソングの“リーヴ・ザ・ウォー・ウィズ・ミー”と共に、ロンドン・グラマーの強さが表われた曲だろう。強さと美しさが入り混じった“ホワット・ア・デイ”に見られるように、ロンドン・グラマーの魅力がさらにスケール・アップされたアルバムだ。

小川充