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Ryan Porter

Jazz

Ryan Porter

The Optimist

World Galaxy / rings

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小川充   Apr 06,2018 UP

 カマシ・ワシントンやサンダーキャットらが所属するロサンゼルスのジャズ集団ウェスト・コースト・ゲット・ダウンの一員で、カマシのバンドのザ・ネクスト・ステップのメンバーでもあるライアン・ポーター。トロンボーン奏者の彼は昨秋にもミニ・アルバムの『スパングル・ラング・レーン』を出していたが、年が明けて早くも新作『ジ・オプティミスト』をリリースした。『スパングル・ラング・レーン』は幼い娘との遊びの中からアイデアが生まれたもので、子供向けの歌をジャズ・アレンジした一種の企画アルバム的な要素が強く、肩の力を抜いた気軽なセッションという感じであったのだが、『ジ・オプティミスト』は一変して気合十分のセッションで、彼の本領発揮と言うべき演奏が収められている。そうした本気度は、11曲収録してトータル100分ほどの演奏時間、10分を超す長尺曲も多い2枚組CD、アナログ盤では3枚組というパッケージからも汲み取れる。

 ただし、実際のレコーディングは2008年から2009年と10年ほど前に行われたもので、カマシ・ワシントンの両親(カマシの父親はミュージシャンのリッキー・ワシントン)の家にある地下スタジオで録音されている。セッションにはカマシ・ワシントン(テナー・サックス)、マイルズ・モスリー(ベース)、キャメロン・グレイヴス(ピアノ、フェンダー・ローズ)、ブランドン・コールマン(フェンダー・ローズ)、トニー・オースティン(ドラムス)などザ・ネクスト・ステップ、及びウェスト・コースト・ゲット・ダウンの面々が参加しているが、カマシが『ジ・エピック』(2015年)でブレイクする以前の録音で、彼らの年齢も20代半ばから後半といったところ。現在のカマシ周辺のミュージシャンたちが頭角を表わし始めた頃の演奏が収められていると言っていいだろう。演奏にはまだ粗削りな部分も見受けられるが、いろいろとアイデアが湧き出てさまざまなスタイルに挑戦する、そんなミュージシャンとして伸び盛りの時期に彼らがあったことが伺える。当時の彼らは著名なジャズ・ミュージシャンのバンドから、ヒップホップやR&Bアーティストのバック・バンドに呼ばれて生計を立てることが多かったようだが、そうした場では抑えていた本来の彼らがやりたいジャズ、演奏がここに収められていると言える。そうした意欲はこのアルバムの隅々から感じられるし、それがジャズという音楽の持つ熱さとなって表われている。

 今から10年前、2008年秋のアメリカではオバマが大統領選に当選し、翌2009年より初の黒人大統領として執務につく。アメリカの黒人たちはオバマ政権の誕生に沸いており、それは“オバマノミクス”という曲に表われている。ファンファーレ風のホーン・アンサンブルにはポジティヴな力が込められており、オバマの演説の「チェンジ、イエス・ウィ・キャン」を楽曲にしたようなものでもある。そして、そうした姿勢はアルバム・タイトルの「楽観主義者」にも繋がっているのだろう。それから10年、オバマの政策には成功と失敗があり、ノーベル平和賞を受賞する一方で、経済面などでは成果を得られなかったと批判されることがある。現在のトランプ政権はその反動から生まれたが、いろいろな部分で混迷を巻き起こしていることも事実で、たとえば人種差別や女性差別に関して問題がクローズアップされることも多い。そうしたアメリカのこの10年の変遷、10年前と現在との対比が、“オバマノミクス”ひとつとっても見えてくるのではないだろうか。賛美歌を意味する「サーム」からつけられた“ザ・サーミスト”には、彼ら黒人ミュージシャンのゴスペル的な音楽性が見えてくる。演奏はハード・バップ的なスタイルに基づくもので、ライアンたちミュージシャンがしっかりとしたジャズの基本を学んできたことを示している。

 カマシに捧げた“K・ウォッシュ(K-Wash)”は、ジャズ・ボッサ風のアクセントを持つビートにヒップホップのテイストをミックスしており、“ザ・インストゥルメンタル・ヒップホッパー”はヒップホップを意識したようなファンク調のナンバー。このあたりがヒップホップを聴きながら育ったジャズ・ミュージシャンならではと言えるだろう。いくつかカヴァーもやっており、彼らが影響を受けたであろうミュージシャンや楽曲が取り上げられている。フレディ・ハバードの“リトル・サンフラワー”、ジョン・コルトレーンの“インプレッションズ”、キャノンボール・アダレイの“チョコレート・ニューサンス”を演奏しているが、このうち“リトル・サンフラワー”はブラック・フィーリング溢れる怒涛のアフロ・ジャズ・ファンクとなっており、カマシの『ジ・エピック』の世界を先取りしていたような演奏と言える。この“リトル・サンフラワー”には、奴隷制時代の黒人たちが働く農場の風景を象徴するヒマワリが、人種差別の暗喩として登場する。黒人奴隷について歌ったビリー・ホリデイの“奇妙な果実”、黒人労働者たちの労働歌であるキャノンボール・アダレイの“ワーク・ソング”、黒人社会の葬送曲であるアート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの“モーニン”など、黒人のジャズには暗喩としてこうした表現が見られることがあるのだが、ライアンたちミュージシャンの演奏にもそうした黒人ならではのフィーリングが息衝いている。

小川充