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Various Artists

AmbientDroneMusique Concrète

Various Artists

深遠SHINEN

duenn

Bandcamp

デンシノオト   Aug 23,2018 UP

 日本のカセット・レーベル〈ダエン・レーベル(duennlabel)〉が、リリース45作でついにクローズする。あのニャントラ(中村弘二)、リョウ・アライ、メルツバウ、畠山地平、ショータヒラマ、フォーカラー(杉本圭一)、糸魚健一、食品まつり、勝井祐二 、セラー(ウィル・ロング)、ミキ・ユイ、オヴァル、浅野忠信、フルカワミキ、イクエ・モリなど世代や領域を超えた独創的な音響作家、音楽家、アーティストたちの作品を、カセットというメディアでリリースし、われわれの耳にエクスペリメンタル・ミュージックの「今」を提供してくれた貴重なレーベルであった。それがついに終了する。

 ラスト・リリースとなる本作『深遠SHINEN』は、レーベルにおいて重要な役割を果たしてきたコンピレーション・アルバムの最新作である。前作コンピレーション・アルバム『ランドスケープ・ペインティング』は、絵画をテーマとしてコンピレーションで、マシーン・ファブリック、メアリー・ラティモア、リーヴォン・マーティンス・モアーナ、レーベル・オーナーのダエンなど今の時代を象徴するような個性的なエクスペリメンタル・アーティスト/音楽家が参加していた。
 本作のキュレーションもまた絶妙である。イタリアのロゼート・デッリ・アブルッツィを拠点とし、音響レーベルの老舗〈ライン〉からのリリースで知られるサウンド・アーティストの俊英ファビオ・ペルレッタ(Fabio Perletta)。フランスはパリの知られざる音響作家ジュリー・ルース(Julie Rousse)。ウルトラ・ミニマルな作風で知られるアメリカはロサンゼルスのベテラン・サウンド・アーティスト、スティーヴ・ロデン(Steven roden)。そしてレーベル主宰者であり日本を代表するアンビエント/ドローン作家のダエン(duenn)。

https://duenn.bandcamp.com/album/v-a-shinen

 冒頭1曲め(A1)はファビオ・ペルレッタの“Eventi”という曲である。印象的な物音と乾いた電子音とノイズの絶妙なコンポジションに惹かれる。非反復と非連続的な打撃感など、どこか日本の雅楽のようなムードを醸し出す。この物音の深い響きこそ、まさに「深遠」の象徴ではないか。
 2曲め(A2)はジュリー・ルースのトラック。持続音と環境音によるインダストリアル/ノイズ・ドローン作品。
 3曲め(A3)はダエンによる“gagaku”。その清潔な朝霧の深淵のようなドローンは圧倒的で、まさに日本の雅楽を思わせる出来だ。どこか心身を綺麗に洗い流してくれるようなドローン作品に仕上がっている。その深い音響的質感は、ソロ・アルバム『モナド』(2017)以降のサウンドであり、彼が現在、別次元のアンビエント・アーティスト/ドローン作家に変貌しつつあることを示している楽曲だ。
 4曲め(B1)は、巨匠スティーヴ・ロデンの“skyskygroundgroud”である。次第に変化していくミニマルな電子音に恍惚となる。12分33秒というアルバム一の長尺トラックである。
 ラスト5曲め(B2)はレーベル・オーナー、ダエンの“gagaku2”。2分16秒という短い時間だが、アルバム名「深遠」を見事に表現する曲といえる。今のダエンは、音の深遠を捕まえつつあるのではないか。
 むろんそれはダエンの曲のみに留まらない。ファビオ・ペルレッタの非連続性・非反復性、ジュリー・ルースの多層的な音響空間性、スティーヴ・ロデンのミニマリズムなど、このコンピレーション・アルバムは、アンビエント/ドローンという00年代以降の音楽形式の到達点を密やかに提示する。
 ペルレッタの日本の雅楽を思わせる音、ダエンの曲名、ロデンの反復、ルセの自然と融解するような音、そして何より「深遠」というアルバム名。この符号に私は日本的な自然観と人工物の融解を聴いた。このレーベルの音が行き着いた音は、そこにあるような気がしてならない。深く、遠く、音と音が混じり合い、そして鳴り続けること。持続反復。逸脱と生成。
 それは聴く人(の耳)によって結晶のように常に変化をし続ける音響持続でもある。現代アンビエントやドローンはそういった環境と状況を聴き手に提供する音響装置ともいえよう。本アルバムもまさにそうである。聴取環境・状況によって、音への認識が多様に変化するミニマルな音の結晶体としてのアンビエント/ドローン。その認識の変化こそ豊穣な聴取体験なのだ。

 本コンピレーション・アルバムをもって、〈ダエン・レーベル〉は幕を下ろす。先に書いたようにこれは2010年代のエクスペリメンタル・ミュージック・シーンにおいて極めて重要な「事件」ではある。だが同時に「とりあえずの終わり」に過ぎないとも思えるのだ。音は終らない。鳴りやまない。じじつダエンはニャントラとの「ハードコア・アンビエンス」の開催・活動を続けているし、メルツバウやニャントラらと「3RENSA」としてアルバムをリリースする。今後、さらなるリリースも期待できるはずだ。彼は音の深淵/時間の深淵を追及するアンビエント/ドローン作家として、さらなる高みに到達するに違いない。プリズムと逸脱の持続と生成のように。音は鳴り続けるのだ。

デンシノオト