Home > Reviews > Album Reviews > Shinobi, Epic & BudaMunk- Gates To The East
ビートメイカーとしてLAのアンダーグラウンド・シーンにて活動しながら、のちのLAビート・シーンを築く面々とも交流し、日本への帰国後は〈Jazzy Sport〉や〈Dogear Records〉などを基盤にソロや様々なプロデュース・ワークを生み出しながら、5lack、ISSUGI とのユニットである Sick Team や mabanua との Green Butter など幾つものコラボレーションによるプロジェクトを手がけてきた、ヒップホップ・プロデューサーの BudaMunk。その彼が、新たに Shinobi と Epic というふたりのラッパーと組んで完成させたのが、本作『Gates To The East』だ。実の兄弟という Shinobi と Epic のふたりは、過去にも BudaMunk の作品にたびたび登場しており、今回、満を持してのアルバム・デビューとなる。横須賀を拠点に活動していたという彼らのラップは基本的に英語がベースであるのだが、本作はなんとも不思議なオリエンタル感がアルバム全体に漂っているのが興味深い。過去にはLA時代の盟友であるラッパーの Joe Styles と100%英語のリリックによる、LAアンダーグランドのフレイヴァ溢れるアルバムをリリースしている BudaMunk だが、本作の雰囲気は明らかに異なる。当然、ごく僅かながらリリックに挟み込まれる彼らの日本語もスパイス的に作用しているであろうが、決してそれだけではない。言葉では明確には表現できない“わび・さび”のような感覚が、このアルバムの空気感を作り上げているように思う。
90年代、2000年代のヒップホップをベースにしながら、それをいまの感覚でアップデートした上での“ブーンバップ・ヒップホップ”が、BudaMunk のサウンドの軸になっているわけだが、本作でもその軸は全くブレていない。フィルターの効いたサンプリングのウワモノやドラム、ベースとの組み合わせが、心地良さとドープネスを同時に生み出し、さらに絶妙な揺らぎが独特なグルーヴを生み出す。そして、そのサウンドに、同じ温度感を持った Shinobi と Epic のレイドバックしたラップが実に見事にフィットしている。兄弟ということもあってか、多少の声の高低の違いはあるものの、ふたりのラップの質感は似ている部分も多い。それゆえにフィーチャリング・ゲストが入ることで生まれる変化の振れ幅は非常に大きく、ISSUGI が参加した本作のメイントラックでもある“Mystic Arts”の破壊力の凄まじさがそれを物語っている。一方、ある意味、飛び道具的な“Mystic Arts”に対して、アルバム全体は実にいぶし銀の仕上がりだ。しかし、ひとつひとつの曲を聴き込めば聴き込むほど、そのトラックとラップが実に複雑に絡み合い、共鳴していることが分かるだろうし、2019年の最先端のストリート・サウンドが本作には充満している。
アメリカやヨーロッパなどにも着実に根付いているブーンバップ・ヒップホップのムーヴメントだが、BudaMunk こそがこのムーヴメントの中で、日本を代表する存在であることを改めて認識させてくれる作品だ。
大前至