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飯島直樹さんがいなくなったので、〈Avon Terror Corps〉=ATCなるブリストルの集団がいったい何なのかすぐに教えてもらうことができない。サウンドから察するに、彼らは〈Bokeh Versions〉周辺のアーティスト、Jay Glass DubsやMars89あたりとも連動しているはず。が、しかしずいぶんパンク色は強く、そう、パンキシュで、とことん急進的なインダストリアル・パンク・ダブとでも言えばいいのか、昨年リイシューされたマーク・スチュワート&エイドリアン・シャーウッドの初期作品ともぜんぜん重なってしまう。つまり、ポストパンクの感触がたっぷり塗り込まれた、容赦なく荒れ狂うデジタル・ビートと金切り声。どこまでも不快なノイズ。イイネ。
ATCが作品をもってシーンに登場したのは、2019年初頭だと思われる。カセットとアナログ盤をベースにリリースしているようだが、まあ、そこもいまどきのブリストルといったところではある。そしてそのうちの1枚、Salac のデビュー・アルバムには、ATCのやりたいことがぎっしりと詰め込まれていると見た。ブリストル・サウンドの系譜においてそのもっともとんがった残響とリンクしながら、ここにはTGスタイルの(なかばユーモアの込められた)薄気味悪さもあり、ヴェイパーウェイヴを通過したインターネット暗黒郷における絶望的なトラッシュ感覚もある。まあとにかく、彼らは現代的で攻撃的で挑発的だ。ざっとこの10年の流れで言えば、〈Blackest Ever Black〉が率先したインダストリアル系、あるいはブリストルのヤング・エコー系、これらの先鋭的な融合の先にある〝サウンド〟だと。注目してもいいんじゃないだろうか。
ATCにはほかにもKinlaw, Franco Francoなる名義の、この文脈でトラップまでやっている強者もいるのだけれど、今年に入ってそのサブレーベル〈Global Terror Corps〉=グローバル・テロリスト隊からリリースされたConcentrationなる3人組の「I'm Not What I Was EP」もまたすごいことになっている。その音楽は、本人たちの説明によれば〝アジット・テクノット・ポップ〟であり、〝ハイエナジー・エレクトロ・ライオット〟であり……(いったいどんな音だよ!)。で、Salac同様に、ここにも〈On-U〉がインダストリアルに接近した時代の破壊的かつ狂乱的なダブ・コラージュが展開されているのだが、興味深いことにその音響はムーア・マザーのアルバムともどこかでリンクしている。ぼくにはそう感じる。ちなみに、この一派における〈On-U〉系のダブに近いところでは、Bad Trackingなるグループもいて、Salacらとともに、いままさに〝ネクスト〟がはじまっていることを印象づけている。
これらブリストルの新潮流を聴いていると、ザ・ポップ・グループでさえも本当に〝ポップ〟に聴こえてくるかもしれない……なんてことはないが、いま、そのぐらい強力な新しい風が吹いている。スラヴォイ・ジジェクによれば、今日の社会では笑顔や楽しむことは資本主義が強制する義務だそうだ。ならばこれは怒りの季節である。Feel it!
野田努