ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 完成度の低い人生あるいは映画を観るヒマ 第二回 ボブ・ディランは苦悩しない
  2. Lawrence English - Even The Horizon Knows Its Bounds | ローレンス・イングリッシュ
  3. 別冊ele-king ゲーム音楽の最前線
  4. The Murder Capital - Blindness | ザ・マーダー・キャピタル
  5. interview with Acidclank (Yota Mori) トランス&モジュラー・シンセ ──アシッドクランク、インタヴュー
  6. Columns ♯11:パンダ・ベアの新作を聴きながら、彼の功績を振り返ってみよう
  7. Shinichi Atobe - Discipline | シンイチ・アトベ
  8. Columns 2月のジャズ Jazz in February 2025
  9. R.I.P. Roy Ayers 追悼:ロイ・エアーズ
  10. interview with DARKSIDE (Nicolás Jaar) ニコラス・ジャー、3人組になったダークサイドの現在を語る
  11. Richard Dawson - End of the Middle | リチャード・ドーソン
  12. interview with Elliot Galvin エリオット・ガルヴィンはUKジャズの新しい方向性を切り拓いている
  13. Bon Iver ──ボン・イヴェール、6年ぶりのアルバムがリリース
  14. Arthur Russell ——アーサー・ラッセル、なんと80年代半ばのライヴ音源がリリースされる
  15. Meitei ——冥丁の『小町』が初CD化、アナログ盤もリイシュー
  16. Horsegirl - Phonetics On and On | ホースガール
  17. Soundwalk Collective & Patti Smith ──「MODE 2025」はパティ・スミスとサウンドウォーク・コレクティヴのコラボレーション
  18. 三田 格
  19. 完成度の低い人生あるいは映画を観るヒマ
  20. 完成度の低い人生あるいは映画を観るヒマ 第一回:イギリス人は悪ノリがお好き(日本人はもっと好き)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Salac- Sacred Movements

Salac

Neo-Bristol SoundNeo-Industrial

Salac

Sacred Movements

Avon Terror Corps

野田努 Feb 25,2020 UP
E王

 飯島直樹さんがいなくなったので、〈Avon Terror Corps〉=ATCなるブリストルの集団がいったい何なのかすぐに教えてもらうことができない。サウンドから察するに、彼らは〈Bokeh Versions〉周辺のアーティスト、Jay Glass DubsMars89あたりとも連動しているはず。が、しかしずいぶんパンク色は強く、そう、パンキシュで、とことん急進的なインダストリアル・パンク・ダブとでも言えばいいのか、昨年リイシューされたマーク・スチュワート&エイドリアン・シャーウッドの初期作品ともぜんぜん重なってしまう。つまり、ポストパンクの感触がたっぷり塗り込まれた、容赦なく荒れ狂うデジタル・ビートと金切り声。どこまでも不快なノイズ。イイネ。
 ATCが作品をもってシーンに登場したのは、2019年初頭だと思われる。カセットとアナログ盤をベースにリリースしているようだが、まあ、そこもいまどきのブリストルといったところではある。そしてそのうちの1枚、Salac のデビュー・アルバムには、ATCのやりたいことがぎっしりと詰め込まれていると見た。ブリストル・サウンドの系譜においてそのもっともとんがった残響とリンクしながら、ここにはTGスタイルの(なかばユーモアの込められた)薄気味悪さもあり、ヴェイパーウェイヴを通過したインターネット暗黒郷における絶望的なトラッシュ感覚もある。まあとにかく、彼らは現代的で攻撃的で挑発的だ。ざっとこの10年の流れで言えば、〈Blackest Ever Black〉が率先したインダストリアル系、あるいはブリストルのヤング・エコー系、これらの先鋭的な融合の先にある〝サウンド〟だと。注目してもいいんじゃないだろうか。
 ATCにはほかにもKinlaw, Franco Francoなる名義の、この文脈でトラップまでやっている強者もいるのだけれど、今年に入ってそのサブレーベル〈Global Terror Corps〉=グローバル・テロリスト隊からリリースされたConcentrationなる3人組の「I'm Not What I Was EP」もまたすごいことになっている。その音楽は、本人たちの説明によれば〝アジット・テクノット・ポップ〟であり、〝ハイエナジー・エレクトロ・ライオット〟であり……(いったいどんな音だよ!)。で、Salac同様に、ここにも〈On-U〉がインダストリアルに接近した時代の破壊的かつ狂乱的なダブ・コラージュが展開されているのだが、興味深いことにその音響はムーア・マザーのアルバムともどこかでリンクしている。ぼくにはそう感じる。ちなみに、この一派における〈On-U〉系のダブに近いところでは、Bad Trackingなるグループもいて、Salacらとともに、いままさに〝ネクスト〟がはじまっていることを印象づけている。
 これらブリストルの新潮流を聴いていると、ザ・ポップ・グループでさえも本当に〝ポップ〟に聴こえてくるかもしれない……なんてことはないが、いま、そのぐらい強力な新しい風が吹いている。スラヴォイ・ジジェクによれば、今日の社会では笑顔や楽しむことは資本主義が強制する義務だそうだ。ならばこれは怒りの季節である。Feel it!

野田努