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ralph

GrimeHip HopRapUK Drill

ralph

24oz

Self-released

小林拓音   Aug 11,2021 UP
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 初めて “斜に構える” を聴いたとき、素朴にかっこいいなと思った。「交わる気はねえ」「馴れ合いなら首を吊ればOK」と、シーン外部の視座を持った低い独特の声が、EGL & Double Clapperz によるコールドなダブステップ・サウンドと調和している。既存の日本のラップ/ヒップホップに宣戦布告しているようにも聞こえた。この組み合わせなら、ふだんラップばかりを聴いているわけではない自分でも入っていける──ニュース記事を書いた当時そう昂奮したのを覚えている。紙エレ最新号で彼らをフィーチャーした動機も、そこにあった。
 ひとつ裏話を明かせば、表紙をだれにするかしぼりこむ過程で、じつは ralph も候補のひとりにあがっていたのだ(ものすごく悩み、迷い、議論を重ねた結果、これまでのキャリアに敬意を表し ISSUGI を選んだが)。ちなみに Double Clapperz についても補足しておくと、彼らは Tohji がデビューするきっかけになったアーティストでもあった。
 ともあれ2017年の “斜に構える” 以降、ralph は少しずつ名をあげていくことになる。2018年に DBridge、Double Clapperz、Kabuki とのコラボ曲 “Hero” に参加、2019年には初のEP「REASON」を発表し、昨年2月の “Selfish” でより広汎に注目を集めることに成功。つづけて同曲を収めるセカンドEP「BLACK BANDANA」を送り出し、オーディション番組「ラップスタア誕生!」で圧倒的な存在感を誇示、みごと優勝を果たした(同年末には Leon Fanourakis & YamieZimmer とのコラボ曲も投下)。そうして去る6月末にリリースされたのが、彼にとって初のまとまった作品となるこの『24oz』だ。

 前半はこれまでの ralph のイメージを踏襲している。本人が「ハードなモードをチョイス」(“Zone”)と宣言しているとおり、「圧倒的闘争心」「かっさらうこの土地を」(“Roll Up”)、「まだ足りねえ work in progress」(“WIP”)と、リリックは戦闘的で野心に燃えている。トラックや声質に惑わされて見落としてしまいがちだが、ralph のラップの魅力はストレートに日本語の表現を追求するところにある。トラップやマンブル・ラップのスタイルを採用するラッパーが多い新世代のなかにあって、まさにその点こそが ralph を特異な存在たらしめているのだ。ゆえに比較的ことばも聴きとりやすく、ぼくのようにすぐ疲れてしまう中年のおっさんにはありがたい(高速なのでそれでも大変だけど)。
 トラックも進化している。エスキー・クリックとストリングスを活用した “Zone”、太いベースのうえで弦をより壮大に響かせる “Roll Up”、ミニマルな弦の反復を背後に敷いた “WIP”(SEEDA が客演)と、これまでのグライム~UKドリルの路線を引き継ぎつつ、新たな試みがなされている。紙エレ最新号のインタヴューで UKD は、2019年の “No Flex Man” で初めてサンプリングを導入したことを明かしているが、その手法は後の “Selfish” や「BLACK BANDANA」の “FACE” における印象的な声使いに結実。今回のストリングス使いは、それにつづく新境地と言えよう。

 より興味深いのは後半だ。スキットを経て本作はがらりと様相を変える。「いつものたまり場 ここも居場所ではないなと思うよ」「負けた数だけはだれにも負けねえ」(“RUDEBOY NEEDS”)と、リリックは内省的な側面が目立つようになっていく。クライマックスは EGL 手がける “Villains” だろう(愛知は知立の C.O.S.A. が客演)。ラップはハード・モードを解除し、感情を噛みしめ、しぼり出すようなスタイルへと変化。「善を盾にとったヒーローが俺たちの粗を探す/この音止めたきゃ殺せ いまここで」と、みずからをヴィランに見立て叙情的に単語を紡いでいく彼の姿はかつて見られなかったものだ。端的に、エモい。
 ことばを噛みしめるようなこの表現法からぼくは、『LIFE STORY』以降の BOSS の発声を思い浮かべた。THA BLUE HERB について ralph は「聴きすぎて身に染みついてる」と上述のインタヴューで語っているが、今回の表現法は彼が「ラップスタア誕生!」の決勝で見せたパフォーマンスと似ている。あのとき ralph は、「未来は俺等の手の中」というフレーズで自身の出番を締めくくったのだった。彼のなかで BOSS の存在はそうとう大きいにちがいない。
 そんなラップにあわせ、トラックのほうも変化している。声ネタを活かした “Window Shopping” や、おなじく声ネタと感傷的なピアノが主導権を握る “RUDEBOY NENE” は、従来の ralph にはなかったサウンドだ。これらの曲は、プロデューサーたる Double Clapperz のルーツの一端が、グライムやUKドリルといったストリート・ミュージックにだけでなく、tofubeats に代表される10年代前半の、ネット発カルチャーにも存していることを確認させてくれる。あるいは〈TREKKIE TRAX〉の Carpainter が手がけた2ステップの “D.N.R”(若手シンガーの AJAH が客演)。同曲はダンス・カルチャーとの接点を確保しており、ぼくのようにヒップホップにどっぷりつかっているわけではない人間のこころを確実につかむ1曲に仕上がっている。

 独特の声質によるストレートな日本語のラップ表現と、グライムやUKドリルから影響を受けたトラックとのマッチング。そのねじれこそ ralph の音楽が持つ最大の魅力であり武器だった。だが本作後半では、ラップもトラックもさらに表現の幅を広げている。
 紙エレのインタヴューで ralph は「リスナーの耳を成長させ」たいと語っていた。それはおもに日本ラップ/ヒップホップ・ファンを想定した発言なのだろうが、多くの趣向を凝らしたこの『24oz』は、ぼくのようにふだんラップをそれほど聴かないリスナー、来るべき新たな訪問者たちにもドアを開放してくれている。閉じないラップ・ミュージックの好例だ。

小林拓音