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Wilco

Country Rock

Wilco

Cruel Country

dBpm

木津毅   Jun 24,2022 UP

 現代におけるフォーク特集となるele-king vol.29のカヴァー・ストーリー、ビッグ・シーフのインタヴューでは「カントリー・ミュージックとコネクションを強く感じるのはどういうポイントか」、エイドリアン・レンカーとバック・ミークのふたりに質問している。回答についてはぜひ誌面を読んでいただきたいのだが、ふたりが懐古趣味に囚われることなく、カントリーの現代人に通じる価値を見出していることは間違いない。そこで自分の頭に浮かんだのは、やはりウィルコの存在だ。ビッグ・シーフが初期にウィルコのフックアップを受けたという事実ももちろんあるが、それ以上にウィルコがカントリーをどのように現代に向けて奏でられるか長年腐心してきたバンドだからである。近年ではラナ・デル・レイのようなポップ・シンガーがカントリーを頼りにしてアメリカの内側に分け入っていくような事態も起きているが、アメリカでは保守的な音楽の代表とされがちだったカントリーの別の側面を長い時間をかけて引き出してきたのが彼らだった。
 別の……つまりウィルコの「オルタナティヴな」カントリーの要素は、しかし、代表作『Yankee Hotel Foxtrot』(2001/2002)辺りでは意識的に撹乱されていたようにも思える。90年代のアンクル・テュペロ時代にオルタナティヴ・カントリーという名称で語られすぎたことへの反動もあっただろうし、より実験精神を強調したいとする当時のジェフ・トゥイーディの野心もあっただろう。ジム・オルークによる大胆なミックスによって伝統的なカントリーの様式性はノイズとともに破壊されていた。そこで星条旗は燃やされていたのである(“アメリカ国旗の灰”)。しかしそれから20年が過ぎ、ウィルコはいまこそ12作目のダブル・アルバム『Cruel County』でカントリーに真正面から向き合っている。

 アルバム・タイトルの「冷酷なカントリー」はカントリー・ミュージックと国家を示すもので、すなわちウィルコの四半世紀にわたって向き合ってきたもののふたつの太い柱のことである。タイトル・トラックでトゥイーディは「ぼくはぼくの国を愛している/小さな子どものように/赤、白、そして青/ぼくはぼくの国を愛している/愚かで残酷な/赤、白、そして青」と歌い始まる。レイドバックしたギター・サウンド……そこで星条旗は燃えておらず、己のなかの愛国心なるものと憎しみとの間の葛藤を象徴するものとしてはためいている。そしてその曲、“Cruel Country” は「きみがしなければないないのは、合唱団のなかで歌うこと/ぼくと」と繰り返して終わる。われわれ民衆の歌──フォークである。ここでは分化していないものとしてのフォーク/カントリーが立ち上がっていて、このミニマルで端的な語りにはウィルコのひとつの達成を見る思いがする。
 全21曲のボリュームのなかの至るところにオーセンティックなカントリーの要素を発見できる本作は、パワーポップなどを取り入れストレートにロック・サウンドに接近した『Summerteeth』(1999)すら遡り、『Being There』(1996)の頃を思い出させるところがある。あるいはアンクル・テュペロ時代をも彷彿とさせる。“A Lifetime to Find” のようなストレートなカントリー・チューンは、ある時期のウィルコなら意図的に避けていたものだろう。ただ、それは単純に回帰的になったという話ではなく、驚くほどシンプルなフォーク/カントリー作だったジェフ・トゥイーディ『WARM』がそうであったように、時間と経験を重ねてきたからこそ(自分たちの/アメリカ音楽の)ルーツの見直しということではないだろうか。本作は約10年ぶりにメンバー全員が集まって一発録りに近いスタイルでレコーディングされたとのことで、20年前に称賛された音響に対する実験的な感性は目立たないものとして溶けこんでいる。バンド演奏のダイレクトな活力、素朴な歌の良さで聴かせるアルバムなのである。いまはたとえば、それこそカントリーとポップとヒップホップをミックスするリル・ナズ・Xもいるし、意図的にカントリー・ルックをコスプレしつつクィア性をドラマティックなカントリー音楽に混ぜて「現代性」を表現するオーヴィル・ペックのようなひとも面白いと自分は思っているが、何のギミックがなくともカントリーの豊かさを現代に向けて解き放てる――というところにまでウィルコは来ている。
 これまたシンプルなフォーク/カントリー・ナンバー “Country Song Upside-down”、つまり「逆さまのカントリー・ソング」はきわめて自己言及的なタイトルと思われる。カントリーの音楽的・文化的な遺産の恩恵を受ける一方で政治的・産業的に長く孕んできた保守性に違和感を抱きつつ、そこに別の角度から光を当ててきたウィルコは、伝統的な意味でのカントリーを「逆さま」にしてきた存在だと言える。だが、中年の白人男性6人組でルーツに根差した音楽を奏でることの「古さ」も自覚しているのかもしれない、「ダッド・ロック」などと呼ばれることもある現在のウィルコは本当にシーンの「父」のような存在となり、後続のミュージシャンたちに、あるいは多くの聴き手に、アメリカと向き合うことの葛藤じたいの重さや尊さを受け継いでいる。彼らの豊かな、「アブストラクト・アメリカーナ」で。

 最後に少しだけ、冒頭に書いたビッグ・シーフに対する質問の回答を引用しよう。カントリー音楽の研究家でもあるバック・ミークはその魅力のひとつについてこう語っている──「カントリー・ミュージックには何かしらアクセスしやすい面があるよね。こちらをすんなり迎え入れてくれる、というか。ワイルドなアイデアを探究するのに、それはとても安全な場だよ。すごくなじみがあるし、友だちとキャンプファイアを囲むような気がして、安全さを感じ、アット・ホームにくつろげる」。『Cruel Country』もそんなアルバムだ。温かくフレンドリーで、聴いていると冷酷な社会や時代の流れから守られる感覚がする。

木津毅

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