ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Eden Aurelius - Entre Nous / emer ft. Ugnė Uma - You and Me | エデン・オーレリウス、エメル、ウグネ・ウマ
  2. The Alchemist ──現代USヒップホップのキーパースン、ジ・アルケミストが来日
  3. Moodymann ──ムーディーマンの来日公演が決定、今年は東京と京都をツアー
  4. Marcellus Pittman ──デトロイト・ハウス珠玉の逸材、マーセラス・ピットマンの来日ツアーが開催
  5. Helen - Linda's Head | ヘレン
  6. Boy Harsher - GET MEAN | ボーイ・ハーシャー
  7. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  8. interview with Adrian Sherwood and Nightmares On Wax UKダブ・“トーク”・セッション | ――エイドリアン・シャーウッド×ナイトメアズ・オン・ワックス特別対談
  9. aya × Violent Magic Orchestra ──初来日を果たす〈Hyperdub〉のアヤと、ブラックメタル・テクノ・プロジェクトVMOによる共同ツアー
  10. The Bug vs Ghost Dubs - Implosion | ザ・バグ、ゴースト・ダブズ
  11. Freddie Gibbs & The Alchemist - Alfredo  | フレディー・ギブズ、ジ・アルケミスト
  12. 細野晴臣 - Yours Sincerely | Haruomi Hosono
  13. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  14. Gaku Kiishi ──『サイコ』『オーメン』『シャイニング』『リング』から『8番出口』『バックルームズ』まで、ホラー映画の音楽を分析する1冊が刊行
  15. CFCF - Radiance and Submission  | 松田松雄
  16. interview with NF Zessho サンプリングは、それを突き詰めればDJプレミアみたいなすごいことになるけど、俺がDJプレミアになれるわけじゃない。だったら自分にないものを埋めたいと思って。
  17. interview with Actress UKテクノ界の奇才が語るみずからの哲学 | ──アクトレス、インタヴュー
  18. Arca - XXXXX
  19. Black Marble - Life in Small Spaces | ブラック・マーブル
  20. アンビエント/ジャズ マイルス・デイヴィスとブライアン・イーノから始まる音の系譜

Home >  Reviews >  合評 > The XX- Coexist(コエグジスト)

The XX

合評

The XX- Coexist(コエグジスト)

ホステス

Sep 05,2012 UP 木津 毅、竹内正太郎、木津 毅、竹内正太郎、木津 毅、竹内正太郎、木津 毅、竹内正太郎 E王
12

憂鬱という悦楽 文:木津 毅

E王 The XX - Coexist
Young Turks/ホステス

Amazon

 デビュー作『XX』の最良の部分、それは"VCR(ヴィデオ・カセット・レコーダー)"のヴィデオに凝縮して封じ込められている。廃墟のような隠れ家で戯れる若い恋人たち、モノクロから不意にカラーへと色づく淡い映像。「VCRでヴィデオを見ながら ふたりで大きな愛を語る/たぶん わたしたちはスーパースターで/最高の存在だってあなたは言う」。そこには優れた少女漫画のようなリリカルさと瑞々しさがあり、僕はふと大島弓子の短編を思い出す......そうたとえば、少年少女が最小の革命へと真っ直ぐに向かっていく『ローズティーセレモニー』を。ザ・XXは、その音とそこにこめられたフィーリングがどれほどメランコリックであろうとも??いやだからこそ、拭いきれない若さとロマンティシズムを抱えていて、その純度の高さにわたしたちは溜息をつく。彼らが優れていたのは、何度となく繰り返し表現されてきた10代の憂鬱をダブステップ以降のポップスとして鳴らした直感的な鋭さであると思う。音数の少なさによって生じる隙間は、聴き手を思春期の揺らぐ感情に放り込むスペースである。そうしてザ・XXは、ポップスの......ラヴ・ソングの、もっともプライヴェートな愉しみ方を刺激する。

 『共存』と題されたセカンド・アルバムでは、さらに音数を減らした"エンジェルス"を見事な導入としながら、基本的には前作の方法論を進めている。ミニマルなビートと、その隙間ですれ違う非常にインティメットなツイン・ヴォーカル。はじめに聴いたときは全体的なトーンが一定すぎるようにも思えたが、よく聞けばジェイミーが打つビートが細かく曲によって分けられており、そのディテールに耳を澄ましたいアルバムだということが繰り返し聴いていると理解できる。たとえば中盤の"トライ"から"サンセット"へと続くフォー・テットの近作のようなダンス・トラックは基本的にキックが4/4を刻みながらも、時折訪れるブレイクで入ってくる裏拍のヴァリエーションが多彩だ。そういったところによく表れているが、ザ・XXの音は非常に耳と身体の快楽を意識して作られている。クラブ・ミュージックの要素が強くなったためにその印象が強くなったこともあるが、基本的な構造としては変わらない。それはつまり、ここでオリヴァーとロミーが囁く陰影の深い愛の詩、その歌が快楽的なものであるということをジェイミーが誰よりも理解しているということで、3人のその緊密な関係性のあり方がバンドの不可侵な佇まいを生み出している。

「隠れよう/共に隠れよう/世界が静かに立ち去るのを許可して/ふたりぼっちになろう"スウェプト・アウェイ"」、「隠れる必要などない/ここにはあなたしかいないのだから"リユニオン"」??まったく逆のことを言っているようでありながら、その実同じことが繰り返し歌われている......社会の喧騒、もしくは「世界」と呼ばれるものに背を向けて、人目のつかない場所で愛を交わすこと。誰も知らない愛を。"VCR"のヴィデオの若いふたりがフラッシュバックする。しかしながら、本作ではアルバム・タイトルにしてもそうだが、"トライ(挑む)"、"リユニオン(再結合)"、"アワ・ソング(わたしたちの歌)"という曲タイトルに、恋愛を歌いながらもどこかそこに留まらない強い結束を感じさせるものがある。そこでは、デビュー作以上に自分たちの音楽とリスナーとの関係性のあり方が非常に意識されているように思える。さらに密室的な聴き方を強く要請する音であり、そこでこそ歌の感情がさらけ出される。「鼓動が変わってしまった/こんなこととてつもなく久しぶりで"ミッシング"」、「展開しよう/秘密のままにはしておかない/どこまでもどこまでも続く感情"アンフォルド"」......ビートが鳴り止んだときに不意に歌い上げられるそれらの言葉が、今度は聴く側の最も内側に侵食しようとする。

 若さは去る。そしてイノセンスは必ず失われる----ことを描いていたのは、萩尾望都の『トーマの心臓』だったかクリント・イーストウッドの『ミスティック・リバー』だったか......。『コエグジスト』でもまた、宿命として愛が去っていくことが主題となっている。だが、彼らはそのロマンティシズムを手放そうとしない。その潔癖さ、清冽さは明るい光の下ではなくて、薄暗い部屋の片隅でひっそりと、しかし隠さずに手渡される。ザ・XXを聴くことの快楽とは、自分のなかにもまだ存在していた純粋な何かを再発見する悦びにとてもよく似ている。そして"わたしたちの歌"では、こんな風に歌われる。「わたしのすべて あなたにあげよう/暗黒の日々に 誰も手を差し伸べなくても/わたしをあげよう/そうすれば わたしたちになれる」

文:木津 毅

»Next 竹内正太郎

12