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The XX

合評

The XX- Coexist(コエグジスト)

ホステス

Sep 05,2012 UP 木津 毅竹内正太郎木津 毅竹内正太郎木津 毅竹内正太郎木津 毅竹内正太郎 E王
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素晴らしき第二章 文:竹内正太郎

E王 The XX - Coexist
Young Turks/ホステス

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 ポップ・ミュージックのアーカイヴにおいて、スペース・ロックの起源がどこであるかを知らずとも、最新の形がそれであることはわかる。あるいは......これがベストなのかもしれない。『The XX』(2009)は、端的に言ってそういう飛躍を許し得る作品だった。それは特段、ドリーミーでも、トリッピーでも、サイケデリックでもなかった。楽器を演奏しない筆者でも容易に判断できるくらい、別に高度な技術性があったわけでもない(少なくとも、そうは聴こえなかったという意味でもいい)。密やかなマシン・ビートに、つま弾く程度のエレクトリック・ギター、そこに薄く重なるムーディなアンビエンス。もし、そこに「何があったのか」という位相での議論になれば、むしろ「何もなかった」と答えるのが相応しかったとも言える。果てしなく広がる無音の空間に、真夜中の空中遊泳へと出かけるための、一睡の浮遊感。ただそれだけがあった。それが2009年の新たなルールだった。

 普段、それほどインディ・ロックを聴かない人からすれば、「インディなんて遠くから見れば全部一緒じゃん!」くらいのことを言いたくなるかもしれないが、無批評的な言い方をすれば、The XXに関しては格が違ったとしか言いようがない。それはインディ・ロックのフェティシズム(相互浸食する類似の音楽を比較し、小数点第一位までレイティングするような細部へのこだわり)などでは絶対になかった。コクトー・ツインズでさえ華美なセルアウト・ポップに思えた、あるいはヤング・マーブル・ジャイアンツでさえ古臭いロックに思えた、あの静謐なポップ・ミュージックは、そのアンチ・ポップ的態度とビート感覚において、ダブステップ以降のUKインディを定義したと言える(目立ったフォロワーは現れなかったと記憶しているが、そのことが逆説的に彼らの大きさを浮き彫りにした)。ロミーの恍惚とした吐息のようなヴォーカル・スタイル(そしてオリヴァーのアンチ・エモーショナルなそれ)を媒介に、あるいは、アンビエント・R&Bと同期するようなジェイミーのサウンド・プロダクションを足掛かりに、ドレイクらネオ・アンビエント・ポップの感性とも共振し、実際にその音は交わった。そしてThe XXの艶やかな無音性はいま、さらなる洗練を見せている。

昨日の夜 世界はふたりの真下にあった
"Fiction"

隠れよう
あなたと共に隠れよう
世界が過ぎ去るのをただ見送って
あなたとふたりぼっちになろう
"Swept Away"

 待望のセカンド・フルレンス、『コエグジスト』。前作から白黒が反転しただけのアートワークに、うっすらと油膜のようなものが光の干渉を描いている。これが、本作の概要をほぼ完全に代弁する視覚イメージである。確かに変わっているが、何も変わっていないようでもある、そんな作品だ。その点からすれば、『The XX』を初めて聴いたときほどのショックはないかもしれない。

 だが、振り返って前作を聴き直したときに、"VCR"や"Island"といった代えがたいインディ・ポップの輝きでさえも、ポップスのセオリーに従った形式的な音楽だったと言えてしまうほどの距離を、『コエグジスト』とのあいだに確認することはできるだろう。驚くべきことに、メロディの煌びやかさはさらに取り払われ、メンバーの脱退という意味以上に、音の装飾的な余剰部はほとんど撤去されている。起伏という点では、前作を上回って抑制されている。広い空間によぎるビターな後味だけが、甘い余韻を醸し、メロディは断片としてのみ、ある。そして、それゆえに、ファースト・リスニングでは1曲たりとも、具体的には記憶できないだろう。彼らはアンチ・ポップの方向性を明確に打ち出している(一瞬だけ、本作にチャーミングな時間が訪れる、"Reunion"に聴こえるスティール・パンの音色は、ジェイミーのシングル"Far Nearer"(2011)からの残響だろうか)。

 しかし、その早熟な音作りとは相反して、詩作という点ではやや紋切型のナイーヴな感性を見せるのがThe XXというバンドでもある(『The XX』のトラック・リストを改めて眺めてみて欲しい)。それは本作においても継続しており、「世界」という巨大な概念を、個人が対峙できるサイズ(ゼロ年代に「セカイ」と呼ばれたもの)にまで圧縮し、対象化しながら、そこに含まれつつも世界を拒絶し、また世界の方からも拒絶さるという、デフォルメして言うのならばそのような世界観を通底させている。そして気の毒なことに、The XXが描く「あなたとわたし」が生きる世界では、常に「あなた」の不在が先行する。「あなた」の存在で無限の承認を得ようというほどの図太さは、彼らにはなく、その圧縮された空間内において、「わたし(僕)」の個人的充足は永遠に先延ばしされている。そして彼らは、その不満足性にこそ、ラブ・ソングの美しさを見出しているようだ。

 ヤング・マーブル・ジャイアンツを必要としない世代のための、アンチ・ポップ・ポップ。一方の世界では、これをこの年のベストな作品だとするのだろうし、また一方の世界では、これをインディ・ロックのフェティシズムと呼ぶのだろう。それを議論するときに聴くべきベスト・トラックは......誰がなんと言おうが、ラストの"Our Song"だ。感傷的なミニマル・バラードをキックとベースが細かくアタックする、この慎ましいクライマックスにおいて、「あなたとわたし」、そして複数形の主語を用いていったい何が歌われ、何が願われているのか。それはあなた自身の手と目と耳で確認してみて欲しい。単に私がセンチメンタル過剰なのだろうか、ベタなことを言えば、『海辺のカフカ』(村上春樹、2002)のクライマックスを彷彿するものが、そこにある。遠のいていく光を、破滅への予感を抱えながらも追いかける(追いかけずにはいられない)、アンビエント・トリップの素晴らしき第二章だ。


文:竹内正太郎

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