Home > Reviews > Album Reviews > Jeff Mills- Sleeper Wakes
かつてテクノもブルーズも近づいてよく聴いてみようという気にならなければ全部同じに聞こえるというようなことを書いたことがあるけれど、そう思って聴いても聞き分けが難しくなっているのがこのテクノ・ウイザードだろう(二重のジョークですよ......というようなイクスキューズを書かざるを得ないのがネットという感じ)。
3年振り、ソロ18作目(?)。この数年、ミルズは宇宙に取り付かれているようで、『コンタクト・スペシャル』(05)で知的生命体によって拉致された彼は『ワン・マン・スペースシップ』(06)では宇宙で感じる孤独に焦点をあて、さらにここでは地球を離れてから発見したことを音楽によってリポートするという設定に進んでいる。音楽的にはいつもながらの流麗なサウンド・スタイルに加えて、M3"ラジウム・ストーム"、M5"バーン・オフ~"などダンス・ビートから離れた曲も多く、M9"フロム・ビヨンド・ザ・スターズ"ではストリングスとの響き合いが絶妙の情感に達している。快楽的でありながら、それに対する懐疑を同時に拮抗させる作風や全体にSF的な音楽センスは元からのもので、かつてよりも洗練されてリプロゼイションされているという以外、とくにいうことはない。あるいは、アフロ系アメリカンの音楽家が宇宙にアイデンティファイしようとする傾向はP-ファンクやアフリカ・バンバータなど数限りなくあり、人種差別がなくならないアメリカでは国民国家時代の必要な置き換えでもあっただろうが、そこには常にコミュニティや適度な集団性が単位としては認識されていた。ミルズは、しかし、あくまでも個人単位で長い作業=観念操作を続けてきたあげく、ここへ来て60年代のサイケデリック革命に見られたような「スリーパーが目を覚ます」というユング的な観念へと歩を進め、いやな予感が立ち上がる(笑)。彼は何度も自分は「呼びかけ」てきたというようなことを話していて、誰ともつながらなかった結果が宇宙への旅立ちだったのかもしれないけれど、そういう意味では愚直に同じことが繰り返されているに過ぎないのかもしれない。いずれにしろ黒人社会の崩壊やヒップホップには逃げ込めないアフロ系が感じていることという意味では非常にリアルな表現ではないだろうか。そうとも思わなければ彼が矢継ぎ早にリリースを続けるモティヴェイションからして理解できないというか。そういえばサン・ラも山のように出していましたよね。
三田 格