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Various Artists

Various Artists

Pop Ambient 2010

Kompakt / Octave-lab

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渡辺健吾 Feb 03,2010 UP

 ザ・KLF誕生前夜の有名なレイヴの後に海辺でボーッと船の音を聞いていて......って話を引き合いに出すまでもなく、アンビエントのかなりの側面は、現実世界にある音と精神がメルトしてしまったり、疲れた耳と体にそういうノイズが心地よくディレイやリバーブが勝手にかかりながら染み込んでくるのがキモチイイーっていう発見を延々と「じゃあどうやったらそれを人為的にコントロール/再現できるか」っていうことを試みる歩みだったのかなと思う。でもかなりの高みに上ったときはそりゃあクールダウンも重要であって、「おいら踊るより戻ってくるときのあの得も言われぬ数時間の方が好きだよー」なんてひとだって当然いるわけだけど。フツーに暮らしてる分には、そういう状態に(気分だけでも)身を置いてサウンドと向きあうなんてことも結構難しい。山手線で窓際に立って規則的な車両の揺れとか軋み、アナウンスや時折聞こえる金属音やひとの靴音やドアの音なんかに囲まれてみなよ。もしくは渋谷の駅を下りてスクランブル交差点を渡ってずーっとセンター街を歩くとかさ。僕はすごく騒がれてるときにもエレクトロニカやらにそんなに積極的に感心したことはなかったけど、イヤホンして街中にいると、グリッチな、精神にヤスリをかけることもありそうな音の方がそういうシーンに溶け込むんだ。ちまちまやってる大概のアンビエントでは、そういう過剰な情報量のある都市のアンビエント・ノイズには負けてしまう。

 今日みたいに雪が降った静かな晩、こんな夜にひとりひっそりヘッドフォンでというある意味贅沢なリスニングには、もってこい? うんもちろん。そんな晩が年に何回あるかわからんけどさ。10作目、10周年を記念するコンパクトの名物シリーズ、『ポップ・アンビエント』の最新版はこれまで以上に旧来からの人材が集い、サウンド的にもどうにも懐かしい香りのする佇まいがある。超ゆったりした牧歌的ギター・サウンドで意表をつくレーベルのボス、ウルフガング・フォイトはじめ、その盟友ヨルグ・ブルガー(Triola名義)、オーブ、トーマス・フェルマン、ポップノーネーム......と、コンパクトのとくにこちらサイドではレギュラーとは言わないまでもお馴染みのメンツが一気に集結している。しかし、なんとなく安心して聴けるというか予定調和に感じてしまう部分も少なくないそれらオールドスクーラーたちより、新しく参加したメンツやあまり知られてない名前の方が無痛化されていくような感覚の中でハッとさせられるのではないか。DJコーツェの気怠いピアノとベースが場末のジャズ・バーのような雰囲気のループを奏で、それらとただただやる気のない弦がのそのそ追いかけっこをしてるような曲は、ちょっと極端すぎるかもしれないが。次に出てくるユルゲン・パープの、風になびいて鳴ってるような鐘の音とどこかレクイエムめいたしかし不思議な高揚感もあるホーンが、音響的には単純ながら、相当独特の雰囲気をつくりだすのに成功しているのもおもしろい。

 今回、レーベル的にイチオシなのか、ブロック・ヴァン・ウェイなる人物のユニットBvdubだけ同じような雰囲気の曲が2曲入っており、しかもアルバムの最後を締めくくるのは17分にも及ぶ超大作でいやでも注目されそう。ゆっくりゆっくり世界を作っていくが、中盤から聖歌的女性コーラスが入ってきた辺りでなんだか4ADちっくな荘厳さを目指していくのは、好き嫌いがわかれそうですな。
 まぁ、なんだかんだ言ってもこんなシリーズが10年も続くケルンのシーンがうらやましいよ、というのが正直な気持ちなんだけど! それこそミニマル以降の若いクラバーたちにとって、チルアウトってどんな意味と響きを持ってるんだろう。

渡辺健吾