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Zomby

Zomby

Dedication

4AD/ホステス

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野田 努   Jul 22,2011 UP

 ゾンビーはダブステップのシーンにおいて、アクトレスと並んでもっとも異端的で、もっともミステリアスで、ある意味では気まぐれなプロデューサーかもしれない。彼は2008年にアクトレスのレーベル〈Werk Discs〉から『Where Were U In '92?』という――流行のイヤフォンなどではとてもじゃないが聴けそうにない――アルバムを出している。1992年の機材(アタリのコンピュータ、サンプラー等々)で作ったレイヴ・トラック集だが、あの当時、我々はドラッグでぶっ飛んだダンサーを見ると「あー、ゾンビ顔だ」などと言って笑っていたものだった。ゾンビーというネーミングの由来がもしそこにあるのなら......いや、実際にそこにあるんじゃないか、そう思わせる両義性が彼の音楽にはある。レイヴを礼賛しながら音楽は決してレイヴィーという感じではない。『Where Were U In '92?』においてもっとも素晴らしいレイヴ・トラックの"Tears In The Rain(雨のなかの涙)"は歓喜よりもメランコリーを強調し、2008年に〈ハイパー・ダブ〉から発表した2枚組の12インチ・シングル「Zomby EP」も、2009年に〈Ramp Recordings〉からリリースした「One Foot Ahead Of The Other EP」(2枚ともにEPという単位の収録時間ではないが)もシャックルトンがディスコに思えるほどで、ダンス・ミュージックというよりはヘッド・ミュージックである。「Zomby EP」にはダーク・アンビエントの曲がところどころ挟まれているし、「One Foot Ahead Of The Other EP」にはグリッチとチップチューンが多分に含まれている。ラスティと繋がっているくらいだから、まあ妥当の線だとも言えるのだろうが、ゾンビーには明らかにコミック文化からの影響があるものの、が、しかし、そのグリッチ・サウンドやチップチューンにはラスティの無邪気さとは異質の、言うなればドレクシアとも似たある種の過剰なファンタジーをところどころ感じる。殺気だっているし、危険な香りが漂っている。人はゾンビーを「ダブステップにおける巨大な影」と形容している。

 アルバムはブリアル~ジェームス・ブレイク~ウィッチ・ハウスの展開に配置できるが、例によってチップチューンも絡んでいる。基本的には忍び寄る恐怖でいっぱいのアルバムで、それはヘヴィー・スモーカーとしてのゾンビーの夥しい幻想のコレクションのようだ。オープニング・トラックは"Witch Hunt(魔女狩り)"、続いてシングル・カットされたウィッチ・ハウス調の"Natalia's Song(ナターリアの歌)"、不吉な妖しさの光沢を持ったシカゴ・ハウス調の"Riding With Death(死に乗って)"、そして重たいダーク・ステップ調の"Vortex(渦)"といった曲を経て、パンダ・ベアの歌がフィーチャーされた"Things Fall Apart(物事は壊れる)"へと続いている。アルバムの後半にはもう1枚のシングルとなった"A Devil Lay Here(悪魔は横たえる)"が収録されている。これはウィッチ・ハウス系のゴシックな感覚にダブのベースラインがブレンドされた魅力的な曲で、"Natalia's Song"と同様に廃れたクラブの気味の悪いダンスフロアで鳴っているようだ。
 16曲収録されているが、そのうち3分を越える曲はわずか3曲、ほとんどが1分から2分台だ。煙でむせかえった彼のスタジオのなかで、瞬間的なひらめきをもって作っているのだろうか......ドレクシアのように対象化された恐怖ではなく、ここにはより本能的で、おさまりどころのないその感覚があるように思える。つまり『デディケーション』はどこにも連れては行かないが帰してもくれないという、まるで幽霊屋敷にひとり取り残されてしまったような、なんともタチの悪い作品なのだ。

野田 努