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ザ・スリッツのライヴを見たときに、アリ・アップをのぞいて、ステージでとくに目立っていたのがキーボードを弾いてバックキング・ヴォーカルを担当していたホリー・クックだった。メンバーのなかで、ひとりだけアフリカ系の血を引いているというのもあったが、レゲエのリズムに乗ってぴゅんぴょん跳ねながら歌っている姿は、彼女がポール・クックの娘だと知らなくても自然に目に入っくる。ステージ映えのするチャーミングな女性だなーと思った。
ポール・クックというのは、いちおう説明しておくと、セックス・ピストルズのドラマーだった男である。スティーヴ・ジョーンズとともにバンドの最初の核となったひとりで、あれだけのメンバーに囲まれながら、ある意味ではもっとも安定した性格の男かもしれない。そしてその娘は、アリ・アップに新星ザ・スリッツのセカンド・シンガーとしてスカウトされ、その才能を開花させた......そう言える彼女のデビュー・アルバムだ。
ロックステディ時代の偉大なシンガー、フィリス・ディロンやラヴァーズ・レゲエの女王、ジャネット・ケイのようなアルバムを作りたかったという話だが、基本はその通りのラヴリーな作品となっている。僕はレコード店でわずか数秒試聴しただけで買うことを決めた。ジャケも良いしね。
バックの演奏も、調べてみるとロンドンのアンダーグラウンド・レゲエの力のあるジャマイカ系のミュージシャンで固めているようだ。驚いたことに、1曲ではベテランのスタイル・スコット(クリエイション・レベル~ダブ・シンジケート/ルーツ・ラディックス)が叩き、1曲ではデニス・ボーヴェル(UKダブの父親)がベースを弾いている!
ザ・スリッツの最後の作品となった『トラップト・アニマル』に収録されたラヴァーズ・ナンバーの"クライ"は、彼女の曲だったということも今回知った。このアルバムにはその別ヴァージョン(ディスコ・ミックス)が収録されている。トースティングをフィーチャーしたダブ・ヴァージョンで、間違いなくアルバムのなかのベスト・トラックである。シングル・カットした"イッツ・ソー・ディフィレント"も良い曲だ。フィリス・ディロン調の甘ったるい歌だが、トラックは引き締まったワンドロップ・ビートだ。
ホリー・クックは、声が良い。ちょっとアリ・アップっぽい歌い方をしているが、クセがなく、柔らかい声をしている。イアン・ブラウンの曲でも歌ったり、再結成したビッグ・オーディオ・ダイナマイトでも歌っているというが、このデビュー・アルバムによって彼女はもう、主役座をモノにしたのではないだろうか。新しくはないが、何回でも聴きたくアルバムだ(なにせフィリス・ディロンだから)。悪いことは言わないので、夏が終わる前に聴いたほうが良いですよ。
野田 努