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Marihiko Hara

Marihiko Hara

Fauna

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三田 格   Jun 27,2012 UP

 タトゥーもダメ、文楽もダメ、クラブもダメ......と『俺は田舎のプレスリー』みたいになってきた大阪。でも、大阪や京都は都会なんだから、これでカウンター・カルチャーが盛り上がらなかったらウソだろうということで(?)、この春から京都でスタートしたシュラインドットジェーピーは早くも7作目のリリースに突入。10軒のクラブを潰されたら「今日はこれくらいにしときますが」(©MBS)といって、次の日には30軒はつくれとばかりに、なかなかのハイ・ペースである。

 マリヒコ・ハラはこれまでにダム・タイプの舞台音楽などを手掛けたり、シルヴァン・シャヴォー(裏アンビエントP180)などと共演してきた演奏家らしい(あまりよく知らない。いろいろやっているらしいので、詳しくは→http://www.marihikohara.com/biography_jp.html)。作品を聴いたのはこれが初めてで、最初に耳を引いたのはイタリア人のラッパー(誰?)をフィーチャーした「フォウナ5」だった。線が細いだけのIDMは苦手なので、可能な限りスルーを心がけてきたものの、これには耳がとまり、生活保護Gメンのように念入りに聴いてみると、オープニングから曲展開に凝っていて、リズムの遊び方も悪くない。線は細いけれど、だからといって、弱々しさをアピっているわけではなく、どこか狡猾に曲がりくねっていく発想がとても楽しめる。なんというかヘビのような曲の数々である。リリースの案内を読んでみると、〈これまで「静けさの中の強さ」をテーマにしてきた原摩利彦の「動物的」な新たな一面を感じることが出来るアルバムです〉とある。どうやら脱皮したことはたしからしい。平たくいえば草食系から肉......いや。

 ゼロ年代もなかばからグリッチ・エレクトロニカは、そもそもリリース数も減っているし、アルヴァ・ノトだけがひとり健闘してきたという印象がある。これに大きな横波をぶつけてきたのがフライング・ロータスで、いずれもリズム・コンシャスであったことが浮上の要因だと考えれば、そこから先にアクトレスやノサジ・シングが控えていたとことはなかなか面白い展開だといえる。以前はともかく、ハラは『ファウナ』でこの流れに加わり、とくに「メガファウナ」3部作などでアクトレスとの共振も示しつつ、独自のモードを発展させていく。ファニーなリズムにシリアスなアンビエント・ドローンという組み合わせにも意外なほどヴァリエイションがあり、アルバム全体を通してどちらに軸足を置いているのかわからない構成の仕方もいまのところは吉と出ている(僕なら少し曲順は変えるかな)。ノイジーに聴かせるときのサジ加減もいい。悪くいえば、せっかくオフ・ビートなどを効かせているのに踊るに踊れない線の細さが最後まで気になることで、それもそのまま関西のクラブ・カルチャーが陥っている不全感を表象しているともいえるので、ユニークなドキュメントだと捉えることも一興である(みんなで踊るな、ピンポンパン!)。そういえば『ダンシング・オールナイト』や『匂艶 THE NIGHT CLUB』は大阪では放送禁止じゃないのかな。歌詞に「踊る」という言葉が出てきたら、全部ピーで消すとかね。かけていいのは『ダンスはうまく踊れない』(高樹 澪)だけ。

 これまでストイック極まりないミニマル・ミュージックにこだわってきたリチャード・シャルティエも、デビュー14年目にして初めて「ピンクの無料電話」という俗っぽい別人格をでっち上げ、ポップな展開を試みている。ポップといっても、エレキングで取り上げられているようなそれではない。マリヒコ・ハラ同様、フィジカルな要素がアンビエント・ミュージックに滲み出てきたということである。聴いた方が早いかな→http://soundcloud.com/experimedia/pinkcourtesyphone-foley-folly

 水族館の水槽に閉じ込められてしまったように暗闇で方向感覚もなくなる「ア・ダーク・ルーム・オブ・プラスティック・プランツ」。潜水艦のなかにいて重い水圧を感じているような「ヒア・イズ・サムシング......ザット・イズ・ナッシング」。大恐慌の時代から響いてくるような「アフタヌーン・テーマ」。ポップになったとはいえ、音響派の面目躍如というか、ある意味、ずう~っと何かにのしかかられているようだけれど、なぜかそれが嬉しくて、つい、何度も聴いてしまう。軽い気持ちにしてくれるだけが音楽じゃないんだなーとかなんとか。今日はこれくらいにしときます。

三田 格