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Cupp Cave

Cupp Cave

Retina Waves

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橋元優歩   Jul 13,2012 UP

 『ダイス・プール』のジャケットをみたときにざわっと心と肌が波うった。実際のプールにサイコロがあふれているわけではなく、そのさまを規則正しく並べたサイコロによってシンボリックに表現するという俳句的な修辞のデザイン。24×24で配された赤いダイスは、すべて3の目を表にし、その並びの直線性を利用して、ジャケット中心から(あるいは中心へ向かって)放射状にのびる大きな線を描き出している。ひとつだけこの規則に沿わないやつがあるのかなと思ったが、例外はなかった。これはなかなかの大物かもしれない、と思ったのはそのときだ。

 このカップ・ケイヴというクリエイターは、ベルギーの〈ヴレック〉からEPやスプリット・シングルを出しているために、先鋭的なビートメイカーとしてヒップホップの文脈で聴かれることが多いようだ。しかしそう限定するにはややもったいないというか、より実態に即して述べるなら、ダンスフロアとベッドルームとヘッドホンとをひとつなぎにしてスタイルの拡張をめざす、ポスト・ヒプナゴジックの才能と考えるべきだろう。彼はサリヴァという名義でマシューデイヴィッドの〈リーヴィング〉から(ハイプ・ウィリアムスとジェイムス・フェラーロのあいだを縫うような)メディテーティヴなアンビエント・ポップ作品をリリースしているし、ホーリー・アザーのリミックスなども行っている。

 その音楽性についてはしばしば「脱臼」という表現を用いて語られる。なるほど彼はビートや音響の予定調和に対して執拗に脱臼を試みる。しかしそれがブロークンな態ではなく、逆にきわめて精緻な構築物としての姿を現している点にカップ・ケイヴの業がある。いわば彼がめざすのは完璧さであり、わずかな狂いのひとつひとつをすべて包括して秩序へと変えてしまうための、柔構造の音のフォームだ。

 まずそのために、きめ細かなノイズやオーヴァー・コンプでゆがんだプロダクションが必要とされている。なんともいえない微温に設定された、あの不明瞭な音像のなかにもつれぎみのビートが沈んでいくとき、そこには破綻ではなく調和がある。筆者には"キッズ・ア・ルーナー"や"ベッド・スラップ"などのビートはただ抽象的な音であるように思われる。"マウス・リップ"などは、4つ打ちながらその抽象化が極まったようにしなやかで心地よい。「心地よい」というのは「居心地がよい」ということで、居る場所があるということだ。カップ・ケイヴの音には聴き手の居場所がある。われわれの存在は、そこではグリッチ・ノイズやほつれたリズムや、その他あらゆる誤差のひとつとして吸収され、繊維状の音の隙間をみたすものになる。柔らかく、それでいて鋼の鋭さをそなえるきわめて設計性の高い音楽だ。アンビエントなジャケット・デザインだが、この色彩を透過して、筆者にはあの完璧なダイス・プールが見える。

 後半のミニマル・ハウス風の展開はそれほど個性的ではないかもしれないが、だからこそ終曲"ホワイト・アウト"の崩れそうなウィッチ・ハウスにはこの作品のまとめとしてのインパクトがある。ビートはすでにほとんど埋もれて見えず、ハウ・トゥ・ドレス・ウェルのように破れた音がきれぎれに漂う。しかし彼のように情念や感傷によってではなく、人を滞在させる建築として自立するかのようなフォームには、ドローン化しアンビエント化するインディ・ダンスのあり得べき未来のかたちが暗示されているように思われる。

橋元優歩