Home > Reviews > Album Reviews > DyyPRIDE- Ride So Dyyp
ファースト・アルバム『In The Dyyp Shadow』から約1年半ぶりにリリースされるDyyPRIDE(SIMI LAB)のセカンド・アルバム『Ride So Dyyp』。まず本作で論じるべきことはふたつ。それは前作がQNひとりがプロデュースしていたことに対し、本作はさまざまなプロデューサーたちが起用されていること。そしてもうひとつがDyyPRIDE本人のラップ・スキルが格段に向上している点だ。
類稀な才能を持ったQNというフィルターを通してプレゼンテーションされたのが前作だとすれば、DyyPRIDE自身が発掘してきたという無名のプロデューサーMUJO情とともに制作されたこの最新作はより本人の趣向が反映された作品であるということが言えるだろう。もともとDyyPRIDEはレゲエとウェッサイを志向していたが、SIMI LABでの多岐にわたる活動とメンバーの影響もあってか、本作では彼らしい土臭い粘っこいヒップホップソング"Lost"のような楽曲もあれば、アナログ・レコードのノイズをあえて強調することでドープさを表現した"Minority Blues feat. DJ ZAI (Prod. by MUJO情)"のような楽曲もある。さらにたぶんこれが本邦初公開となるUSOWA(SIMI LAB)のプロデュース曲"Route 246 feat. JUMA (Prod. by USOWA)"も興味深い。彼はフライング・ロータスに代表されるビート・シーンの音に対して最も意識的なアーティストだが、その彼が提供したトラックはウエッサイにそのエッセンスを注入することで、見事に現代的なヒップホップを作り上げている。
そして今回のアルバムで最も注目すべきはDyyPRIDEのラップである。前作やSIMI LABのアルバムでは鼻にかかったような声とつんのめったようなライム・デリバリーが彼のトレードマークとも言えるスタイルだったが、本作では楽曲によって声の出し方なども変え、よりリリックが聞き取りやすいようにラップしている。さらにリリック面でもタイトル『Ride So Dyyp』というアルバムタイトルが示す通り、自身にある精神的な闇の存在をエンターテインメントに昇華するという荒技をやってのけた。自身の闇と対峙すること。それは口で言うほど簡単なことではなく、『Ride So Dyyp』というタイトルはDyyPRIDEがヒップホップを生業にしていくことに対する覚悟であり、宣言でもあると感じた。
さらに本作では、客演やプロデュースで参加しているSIMI LABメンバーたち各々の成長も確認することができる。なかでも客演で参加したJUMAのラップは、QNの『New Country』収録曲"Cheez Doggs"やOMSBのアルバム『MR."ALL BAD"JORDAN』で聴かせてくれたものよりもはるかに完成度が高くなっている。進化し続ける怪物グループSIMI LABの"現在"を確認するのには、格好の一枚と言えるだろう。
これは余談だが、もしOMSBの『MR."ALL BAD"JORDAN』を未聴の方がいるなら、この『Ride So Dyyp』を聴く前にチェックしておいた方がいい。そうすれば、このアルバムをより楽しく聴くことができるはずだ。
巻紗葉 a.k.a. KEY