ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. ゲーム音楽はどこから来たのか――ゲームサウンドの歴史と構造
  2. Nídia & Valentina - Estradas | ニディア&ヴァレンティーナ
  3. 別冊ele-king 日本の大衆文化はなぜ「終末」を描くのか――漫画、アニメ、音楽に観る「世界の終わり」
  4. Columns ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(前編) Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024
  5. Columns ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(後編) Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024
  6. interview with Boom Boom Satellites 明日は何も知らない  | ブンブンサテライツ(中野雅之+川島道行)、インタヴュー
  7. Black Midi ──ブラック・ミディが解散、もしくは無期限の活動休止
  8. Loren Connors & David Grubbs - Evening Air | ローレン・コナーズ、デイヴィッド・グラブス
  9. interview with Conner Youngblood 心地いいスペースがあることは間違いなく重要です | コナー・ヤングブラッドが語る新作の背景
  10. Columns Nala Sinephro ナラ・シネフロの奏でるジャズはアンビエントとしての魅力も放っている
  11. Jan Urila Sas ——広島の〈Stereo Records〉がまたしても野心作「Utauhone」をリリース
  12. Damon & Naomi with Kurihara ──デーモン&ナオミが7年ぶりに来日
  13. Columns 8月のジャズ Jazz in August 2024
  14. interview with Sonoko Inoue ブルーグラスであれば何でも好き  | 井上園子、デビュー・アルバムを語る
  15. Gastr del Sol - We Have Dozens of Titles | ガスター・デル・ソル
  16. KMRU - Natur
  17. Wunderhorse - Midas | ワンダーホース
  18. Overmono ──オーヴァーモノによる単独来日公演、東京と大阪で開催
  19. R.I.P. Tadashi Yabe 追悼:矢部直
  20. K-PUNK アシッド・コミュニズム──思索・未来への路線図

Home >  Reviews >  Album Reviews > DyyPRIDE- Ride So Dyyp

DyyPRIDE

DyyPRIDE

Ride So Dyyp

SUMMIT

Amazon

巻紗葉 a.k.a. KEY   Mar 06,2013 UP

 ファースト・アルバム『In The Dyyp Shadow』から約1年半ぶりにリリースされるDyyPRIDE(SIMI LAB)のセカンド・アルバム『Ride So Dyyp』。まず本作で論じるべきことはふたつ。それは前作がQNひとりがプロデュースしていたことに対し、本作はさまざまなプロデューサーたちが起用されていること。そしてもうひとつがDyyPRIDE本人のラップ・スキルが格段に向上している点だ。
 類稀な才能を持ったQNというフィルターを通してプレゼンテーションされたのが前作だとすれば、DyyPRIDE自身が発掘してきたという無名のプロデューサーMUJO情とともに制作されたこの最新作はより本人の趣向が反映された作品であるということが言えるだろう。もともとDyyPRIDEはレゲエとウェッサイを志向していたが、SIMI LABでの多岐にわたる活動とメンバーの影響もあってか、本作では彼らしい土臭い粘っこいヒップホップソング"Lost"のような楽曲もあれば、アナログ・レコードのノイズをあえて強調することでドープさを表現した"Minority Blues feat. DJ ZAI (Prod. by MUJO情)"のような楽曲もある。さらにたぶんこれが本邦初公開となるUSOWA(SIMI LAB)のプロデュース曲"Route 246 feat. JUMA (Prod. by USOWA)"も興味深い。彼はフライング・ロータスに代表されるビート・シーンの音に対して最も意識的なアーティストだが、その彼が提供したトラックはウエッサイにそのエッセンスを注入することで、見事に現代的なヒップホップを作り上げている。

 そして今回のアルバムで最も注目すべきはDyyPRIDEのラップである。前作やSIMI LABのアルバムでは鼻にかかったような声とつんのめったようなライム・デリバリーが彼のトレードマークとも言えるスタイルだったが、本作では楽曲によって声の出し方なども変え、よりリリックが聞き取りやすいようにラップしている。さらにリリック面でもタイトル『Ride So Dyyp』というアルバムタイトルが示す通り、自身にある精神的な闇の存在をエンターテインメントに昇華するという荒技をやってのけた。自身の闇と対峙すること。それは口で言うほど簡単なことではなく、『Ride So Dyyp』というタイトルはDyyPRIDEがヒップホップを生業にしていくことに対する覚悟であり、宣言でもあると感じた。

 さらに本作では、客演やプロデュースで参加しているSIMI LABメンバーたち各々の成長も確認することができる。なかでも客演で参加したJUMAのラップは、QNの『New Country』収録曲"Cheez Doggs"やOMSBのアルバム『MR."ALL BAD"JORDAN』で聴かせてくれたものよりもはるかに完成度が高くなっている。進化し続ける怪物グループSIMI LABの"現在"を確認するのには、格好の一枚と言えるだろう。
これは余談だが、もしOMSBの『MR."ALL BAD"JORDAN』を未聴の方がいるなら、この『Ride So Dyyp』を聴く前にチェックしておいた方がいい。そうすれば、このアルバムをより楽しく聴くことができるはずだ。

巻紗葉 a.k.a. KEY